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プロローグ 西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった。 20世紀末から、ほとんど、なんの変化もなく、ただムーアの法則を若干下回る程度に市販コンピューターの性能は上昇しつづけた。 そんな時代に新しい形のコンピューターガジェットが誕生する。 神姫、そう呼ばれたその新しいコンピューターガジェットは、身長15センチほどの少女の姿をした、フィギュアロボだった。 汎用性を兼ね備えたそのガジェット……神姫は玩具として発売されながら徐々にその認知度を上げていき、現在、1990年代における携帯電話なみには、普及し始めていた。 心なんて、信じない。 父さんと母さんが離婚したのは、僕が十歳の時だった。 原因は母さんの浮気。 勿論当時の僕には、そんなことは教えられなかった。 ただ父さんが口癖のように、「母さんは俺たちを裏切っんだ」と言っていたのはいまだに耳にこびりついている。 だけどこの情報化社会、十歳ともなれば、大体ことの次第は想像がつく。 人の世界がどの程度の悪意で出来ているのか、おのずと分かってしまうというものだ。 父さんは母さんから親権を取り上げ、自分ひとりで育てることにした。 別に僕を愛していたからじゃない。 母さんが、親権を欲しがったからだ。 ただ母さんの裏切りに対する復讐として、優秀な弁護士を雇い、母さんから一切の親権を取り上げた。 そんな父さんは母さんと別れてからますます仕事に没頭するようになった。 折角勝ち得た僕っていう『トロフィー』を手放す訳にもいかないらしく、生活費だけは潤沢に与えられた。 他人と話すことなんてほとんどなく、ただお金だけ与えられて過ごしていた僕は、学校にもほとんど行かなくなり、毎日、与えられた金銭で気に入ったコンピューターや機械類を買って、それをいじって遊んでいた。 心のない機械たちを分解、解析して組み立てる。 そんな行為だけが、僕を楽しませていた。 そして、僕が形だけ中学生になった頃…… 「よし……っと……」 買ってきたばかりのコアとボディをセットして、その胸にムーアの法則の最後の守り手とまで言われた、超高密素子CSCをはめ込む。 一緒に買ったクレイドルにボディを寝かせ、接続したパソコンから起動用のアプリケーションを操作する。 途端、炉心に火がついたような低い唸りがCSCから響き始めた。 「Front Line製 MMS-Automaton神姫 悪魔型ストラーフ FL013 セットアップ完了、起動します」 そして、鈴を転がすような少女の声が、僕の耳に届いてくる。 パソコンのスピーカーから……じゃない。 クレイドルに横たわる小さな女の子の唇からだ。 ゆっくりとその小さな女の子がクレイドルから立ち上がる。 「さすがに、良く出来てるなあ……」 「あなたが、わたしのマスターですか?」 「あ、うん。そうだよ。僕がおまえのマスターだ」 「認証しました……マスターの事はなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」 「普通に、マスターでいい」 淡々とつむがれる質問に、僕も淡々と答える。 「神姫に名前をつけていただけますか?」 「名前?」 「はい、MMS国際法に基づき、各神姫には単一オーナーによって名づけられた登録名が必要になります」 ……機械に名前をつける趣味はないけれど、それぞれの神姫には名前を与えて自分一人だけをマスター登録するのがMMS国際法によって決められている。 確かそんなことが事前に読んだMMSや武装神姫の本に書いてあった。 「じゃあ……ジェヴァーナ」 「ジェヴァーナ……神姫名称登録」 そっとその神姫が目を閉じて、自分の名前を確認する。 そして、再び目が開くと…… 「ふうん、ジェヴァーナ……か、それがボクの名前ね? うんうん、気に入ったよ!」 「……へ?」 さっきまでの機械的な話し方とは違う、弾むような声が僕の耳に響く。 「ん? なにぼーっとしてんのさ? マスターが付けた名前で合ってるよね?」 「い、いや、それは、そうだけど……」 突然の変貌振り……というよりも、ここしばらく他人のペースで会話をさせられる事が無かったせいで、なにを言っていいのか混乱してしまう。 「とにかく、これからよろしくね! マスター!」 握手のつもりなのか僕の人差し指を掴んで、ぶんぶんと縦に振る。 「う、うん……」 結局、そう答えるのが精一杯だった。 思えば、この時から気づき始めていたのかもしれない。 武装神姫……ジェヴァーナに『心』があるっていうことに。 「戻る」 「進む」
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「今回は変則的に、三Sが斬るのお時間ですワン」 「でも今日は二人」 「ええ、本日は残るお一方への、サプライズをご用意しましょうかとワン」 「サプライズ?」 「はい、先日めでたく"クラブハンド・フォートブラッグ"が完結いたしまいたので、そのお祝いにとワン」 「それ、名案」 「でしょうワン? まぁ私たちのアングラSSごときが、武装神姫SSまとめwikiの人気コンテンツである"クラブハンド・フォートブラッグ"と関係などあろうはずはないんですけれどもねワン」 「うん、建前上」 「はい、建前上ですワン」 「それでこんなに豪華」 「いきなり話が飛びましたが、これもテッコさんの芸風と受け流しまして、はいその通りですワン」 「花束……垂れ幕……軽食……クラッカー……」 「スピーチも用意してきましたワン。えー…… 『ミヤコン様ハルナ様サラ様、そのほか"クラブハンド・フォートブラッグ"関係者の皆様、この度は完結おめでとうございます。今まで私たちを楽しませてきてくれた名作とのお別れは寂しい限りですが、何事にも区切りは必要というもの、長らくお疲れ様でした。 物語にはひとまずのエンドマークがついても、その中で生きてきたハルナ様サラ様そのほかの皆様方の『これから』はまだまだ続くことでしょう。それが明るく壮健なものであることを願ってやみません。 かなうならば時折、その『これから』を垣間見ることができることを願います。 またミヤコン様におかれましては、"クラブハンド・フォートブラッグ"以外の作品ででもお目にかかれるならば、こんなにも喜ばしいことはありません。 これからの一層のご活躍を、ご期待申し上げております。 十一月吉日 "三Sが斬る"スタッフ代表 犬丸 』 ……こんなものでいかがですワン?」 「犬丸の語彙の豊富さは、武装神姫として異常」 「もうちょっと素直に喜べるお言葉を頂きたいところではありますが、お褒め頂き感謝ですワン」 「あとはゲストを待つばかり」 「はい、この部屋に入ってきましたら、まずは不意打ちで盛大にクラッカーでお出迎えをワン」 「いえっさー」 「(……と、ちょうど入り口付近で物音がワン)」 「(……テッコ、配置完了)」 「(……犬丸、同じく配置完了ワン。目標が扉を開けた瞬間、作戦開始ですワン)」 「(……Tes.)」 「(……了解の示す返答がテスタメントとは、またコアなところを……む?!)」 「(………………!)」 (窓ガラスの割れる音、続いて何か硬質なものが転がる音。そして間髪入れず、破裂音。 「グレネード!」「違う、これ陽動」「なら本命は」などの怒号が飛び交い、激しい戦闘音の連鎖する中、調度品が壊れる音が響き続け……やがて途絶える) 「制圧完了(クリア)! ハッハー、悪魔型や犬型ごときが、このミリタリー丸出しのフォードブラッグにアンブッシュをかまそうなど、10年早いと知りなさい! 何を企んでいたかは知りませんが、アンブシュしようとして逆に奇襲されていては世話はありませんね! さあさあさあ、吐いてもらいましょう、一体何を企んでいたか、いえどっちかと言えば吐かないでくれたほうが楽しい尋問タイムが満喫できて私としてはお勧めですが、さあさあさあ! ………………………………………………………………ってあら?」 「………………………」 「………………………」 「………………………」 「……まぁ、これも彼女たちらしいと思えないこともないですねぇ」 「それでいいの? それでいいのか?!」 「なんにせよ、お疲れ様でした、ということで。……いろんな意味で」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
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武装神姫 鳳凰カップ 実況生中継! 「みなさん、こんにちわ。この番組の実況を務めさせて頂きます、アナウンサーの花菱 燕(ツバメ)です」 二日目の午前十時、俺は昨日まで予選会場だった場所に入れ替わるようにして設置された特設巨大スタジアムの放送席にいる 観客の最大収容人数は一万五千人、中継用のテレビカメラ30台…… もうアホだ、このグループ ゲンナリしつつもやはり解説者の仕事はやらざるをえず、ノアだけを連れて決勝トーナメント開会セレモ二ーのため勢揃いしている予選を勝ち抜いてきた16組を放送席から眺めていた 葉月のヤツ…滅茶苦茶緊張してるよ… 逆にアルティはドッシリ構えてやがる さすが元八相、大舞台には強いってか ミコとユーナはどこかって? 全国放送の番組だ、流石にミコとユーナを連れての大騒ぎはまずいだろうという事で二人は香憐ねぇに預けておいた ちなみに俺の横にいるアナウンサーさんは…もうなんとなくわかるよな? 燕さんは昴の母親なんだわ 花菱財閥の令嬢なのだが、アナウンサーの道に憧れてからは夫である昴の親父さんに財閥を任せ、のびのびと天職ともいえるフリーアナウンサーの仕事をやっている そんでもって御袋と桜さんの二人と同じく幼馴染 三人揃えば元祖かしましシスターズ!! …姉妹ではないがそれほど仲が良いということだ 「それでは今日の解説者の方をご紹介します。まずは武装神姫公式リーグ、公式ランキング13位、ファーストランカーの橘 明人さんと『緑色のケルベロス』ことパートナーのノアールさん。そしてそのお隣が同じく武装神姫公式リーグ、公式ランキング16位、ファーストランカーの綾川 千紗都さんと『黒き狼』ことパートナーの冥夜さんのお二人です。みなさま、今日はよろしくお願いします」 「よろしくおねがいします」 「よろしくおねがいします」 観客席から拍手をもらう 綾川さんは俺のランカー仲間でもある 多分御袋はそこら辺も知ってて彼女を選んだんだろうな 彼女の神姫は黒いアーンヴァルの冥夜 ノアと同じく刃物使いで『黒き狼』の二つ名を持っている 「今回の鳳凰カップ〈春の陣〉はかなりのハイレベルとの噂ですが橘さん、そこのところいかがお考えですか?」 「はい。花菱さんの仰るとおり、今回の参加者は予選脱落者を含めて非常にハイレベルとなっています。『黒衣の戦乙女』や『白い翼の悪魔』、さらには『鋼帝』に『剣の舞姫』、『弾丸神姫』、『クイントス』、『蒼天の旋姫』など、多くの名の知れた神姫が集いましたからね…」 「鶴畑 興紀選手も参加していますし…これはなかなか見られない好カードのバトルとなりそうですよね。綾川さんは注目されている選手はいらっしゃいますか?」 「私は……しいてお名前を上げるとすればAグループ代表のアルティ・フォレスト選手&ミュリエル選手でしょうか」 俺は綾川さんの言葉にぎくりとする 「彼女達は米国リーグで名をはせた実力者と存じています。ミュリエル選手はファーストの神姫にも劣らないとかで…」 そのことは観奈ちゃんから教えてもらっていたのであえて触れなかったのだが… あいつが騒がれたり注目されることで面倒なことになりかねないしさぁ… ちらりと下にいるアルに目をやれば「…何故私のことに触れなかったんだ」といわんばかりにこっちを凝視していた えぇい、この際見なかったことにしようと目線を横に逸らすとニコニコしながら俺を見ている綾川さんと目が合った それにしても…おかしいな…確か彼女には俺とアルの関係を教えてはいなかったと思うんだが… 「綾川さんは去年おこなわれた第三回大会、二度目の〈春の陣〉の優勝者ということですが…」 ええ? そうだったの? 俺、初耳なんだけど… 「はい、この大会は私にとって思い出深い大会なのですが…優勝した後の大変さが身に沁みましたね」 「と、もうしますと?」 「去年の大会からこの子が『黒き狼』なんて言われ出して、挑戦者が後を絶たなかったんですよ。橘さんのノアールちゃんみたいに実力があれば対処できたかもしれませんが、私達はホントに大変でした;」 少し困ったような笑顔で微笑む綾川さん 「つまり、この大会の知名度がどれほど高いかというわけですね…。さぁ、今大会からも未来の超有名神姫が誕生するのでしょうか!? 間もなく開会セレモニーが始まろうとしております!!」 燕さんがそういい終わるとスタジアムの横から屋根が出現し始める えぇ!? このスタジアムって特設のくせに開閉ドーム式なのか!? やっぱアホだろこのグループ!! 屋根が閉まりきり、スタジアムの中は真っ暗闇に包まれた この後はジジイによる主催者挨拶である (なんとなく頭の中で『一寸先は闇』って諺が浮かんできたんだが…俺ってネガティブ?) (安心してくださいご主人様、私もですから…) ノアと小声で話していると、スタジアム中央に“カッ!”と一筋のスポットライトが輝く その光の真ん中にはジジイの姿が………って、オイ 『れでぃ~~すえんどじぇんとるめん!!ようこそ盛大なる戦姫の祭りへ』 なんか椅子に座って足組んでるよ… 赤いスーツ姿で右目には黒い眼帯だしよ… おもいっきりアレじゃねぇか… 『さて皆さん、今ここに集いしは過酷な試練を超えた十六組の小さな姫とそのパートナー達であります。まずは苦難の道を勝ち抜いた彼らに賞賛の言葉を送りたいと思います…』 あああああああああ…頼むから全国ネットでアホな姿はさらすんじゃねぇぞ!? アンタ代表なんだからな? 鳳条院のトップなんだからな? 『しかし、彼ら彼女らに待ち構えるは今までよりもさらに厳しい王者への道。己の名を広き世界へ轟かせる勝鬨を上げるものは誰なのか、しかと彼女らの放つ熱き輝きを目に焼き付けて欲しい。諸君に『五色の翼の杯』……聖杯の加護があらんことを……』 左手をまげて礼式風の御辞儀をする爺さん 流石のジジイもなんとかちゃんとした場だと言うことはわきまえ… 『それでは皆さんご一緒に!! 武装神姫バトル! れでぃ~~~~っ……』 『ゴーーーーーーー!!!!』 ガツン! と勢いを殺せないまま実況席のテーブルに額をぶつけてしまった俺とノア 燕さんも綾川さんと冥夜もひっくるめて会場全員で怒涛の開幕となった もしかして毎回コレをやってるのかあのジジイ…… やっぱアホだわこのグループ!! 「さて、続いては決勝リーグのルール説明へと参りましょう。決勝リーグもバトル方式は予選と同じくバーチャルバトルです。しかし、通常のものよりもバージョンアップしている超大型V.B.B.S.筺体を使用します」 この大型V.B.B.S.筺体はフィールド自体の大きさはリアルバトルで使用するフィールドほどの大きさだ ようするに、リアルバトルにできるだけ近いバーチャルバトルということだな 「会場の皆様や視聴者の方々には私達の放送席の向かい側の巨大スクリーンより緊迫感のある白熱したバトルをご覧頂けます」 ちなみにバトル中の両オーナーは位置的に巨大モニターが見れなくなっている 自分の神姫が何処にいるのか相手にばれないように、また、相手の神姫がどこに隠れているのかわからないようになっているんだ 「鳳凰杯は第一回戦の八試合を午前の部とし、そこでの勝者八名による再抽選をおこないます。その後、途中休憩を挟んでから残りの午後の部に移ります。以上で説明の方を終わらせていただきまして、第一試合の方に参りましょう…」 またしてもライトが消えて暗闇に包まれてからしばらくすると、東西の両端に一本ずつ光の柱が一回戦の対戦者達を照らし出す 「まずは西方、虎門よりAグループの覇者、アルティ・フォレスト選手とミュリエル選手! 彼女らに対しますはBグループを制しました鳳条院 葉月選手とレイア選手、龍門より入場です!!」 お互いに大型V.B.B.S.筺体をはさんで目線をぶつける さっきまでの緊張は何処へやら、真剣そのものの顔はいつのも葉月ではない証… 「この試合の見所はいかがな所でしょうか橘さん」 見所って言ったってなぁ こちとらいきなり身内同士の対決なわけで…… とりあえず 「決勝リーグのオープニングを飾る一戦ですからね。双方悔いのないような良いバトルを期待しています」 ありきたりだがこんなもんだろ… 「御主人様…明人さんが悔いのないように頑張れって言ってます…」 「………」 「御主人様?」 「大丈夫だよ、レイア」 「は、はい……」 「私にはレイアがいてくれる…私はレイアを信じてる」 「御主人様……」 「あの時みたいに…力がなくて、ただ兄さんとアルティさんを…二人の関係を見ているだけしかできなかった私じゃない。今の私にはあなたがいる…お願いレイア…私に力を貸して!」 「………はいっ!!」 「実力的に言えばレイアは今だお前ほどではない…ただ、エリーがどんな厄介な物を渡したのか…そこが気になるな」 「……気にするの良くない…所詮、ぶっつけ勝負…」 「そうかもしれんがエリーは武装の特性にあうモニターを選ぶだろ。お前だって何回か使っただけで《ライトオリジン》や《レフトアイアン》を使いこなしたじゃないか」 「…そう………………………だっけ?」 「…なんにしても警戒が必要ということだな」 「さぁ両オーナー、武装させたパートナーをエントリーゲートに見送ります…」 他の武装をサイドボードに置くと開始前の静けさが会場を支配する 固唾を呑むとはこの事だ フィールドは…天守閣がそびえ立つ城の中庭 散りゆく桜に満月の光が影をつくる中に二人の悪魔がお互いを見つめている 「負けるわけには…いきません…」 「……勝つ……」 『ファーストバトル…ミュリエルVSレイア、レディ………』 両者腰を落として始まった瞬間の動きを警戒する 『ゴォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!』 「はあぁぁぁぁっ!!」 『先に動いたのはレイア選手! 開始の合図に一足早く反応した!』 いや、違う ミュリエルも反応できていたがあえて後手に回ったんだ スクリーンに映るミュリエルの表情に一片の焦りも伺えない 冷静そのもの、完全に誘っている ミュリエルはそれでも接近するレイアをバックステップで距離をとりながら手に持ったシュラム・リボルビンググレネードランチャーで迎撃 会場のあらゆる所に設置されたスピーカーから爆音が響き渡る 『クリーンヒットか!? レイア選手、開始十秒とたたずに終わってしまうのでしょうか!?』 爆心地周辺を覆いつくしていた黒煙が舞い散る桜をのせた風により少しずつ薄らいでいく レイアは満月の逆光を背に浴びながら立っていた それも…… 『レイア選手…む、無傷です! 目の前にかざした巨大な武装で身を護りました!』 目の前にかざした武装…それすなわち紛れもなくエリーからの陣中見舞い、全領域兵器《マステマ》であった 全長はLC3には満たないものの、高強度の防御装甲があるため重量で言えば間違いなく上である それゆえに攻防一体の構えが取れ、前方下と後方下についた悪趣味なほどにギラつく刃は大抵の物を重さとともにぶった切り、前の刃のすぐ上はアレンジのため高エネルギー砲となっている オマケに二機のN2ミサイル…とまでは流石にいかなくても…ASM-Ⅶ『ハルバード』レベルのミサイルを備えてある 『敵意』の名の通り…手加減容赦ない凶悪兵器を自分の前にかざしているレイア 普段はおとなしい、良い子の彼女が始めて悪魔に見えた瞬間である 『無傷…か。防御装甲の強度が半端じゃない…出し惜しみしていて持久戦にでもなれば流れはこちらに不利だぞ』 「了解、《ライトオリジン》……展開…」 右腕手首がパージされ、蓄蔵されていたエネルギーが砲身にプラズマ現象を引き起こす 『レイア、チャージ開始。迎撃方法はわかってるわよね?』 「わかっています御主人様、任せてください!」 『ファーストコンタクトを終えお互い、今だ無傷! 高エネルギー波の力比べとなるのでしょうか!』 それはマズイ 《ライトオリジン》はあらかじめ初発分のエネルギーチャージはすませているはずだ ミュリエルは慌てずに照準を合わせるほどの余流がある 「……Lock」 スコープのど真ん中に映りこんだレイア目掛け高エネルギー波は発射される 『今よ、レイア!!』 「てあ!」 レイアは《マステマ》を持ち上げる さきほどと同じくを表に来るようにするが… 『またしても防御の姿勢に入った!しかし綾川さん、それで防げるのでしょうか!?』 答えは否 受け止められたとしてもミュリエルは次の動きに入る 反動で遅れたところを《レフトアイアン》の速射砲でつめられたら成す術がなくなってしまう 万事休すの展開でも葉月とレイアの目はまだ生きている 『彼女の狙いが防御だけとは限りませんよ』 と綾川さんの一言 『同意見ですね…』 『そ、それはどういう…』 すぐに答えは周知のものとなる レイアは《マステマ》の防御装甲面を展開、下に隠れていたハルバート級ミサイルを後方刃の上部にあるもう一機とともに合計二本、全弾打ち出した 防御装甲面下に隠れていた分は《ライトオリジン》のエネルギー波を相殺し、残る一方はミュリエル目掛けて飛んでいく 『小ざかしいマネを…ミュリエル、《レフトアイアン》!!』 「…展開、迎撃開始…」 即座にパージされた左腕から銃口が現れ雨あられと弾幕を張る …なにか妙だ 普通、ミサイルの迎撃を重視するなら《アポカリプス》も使えばいい… 「彼女、何か狙っていますね…」 マイクを通さずに俺に話してきたのは綾川さんだった 彼女も俺と同じく勘付いているようだな ミサイルは《レフトアイアン》だけでも打ち落とせたが、爆発した距離が近かったせいもありミュリエルは黒煙の中に消えていった 『レイア、決めるわよ!』 「了解です!!」 『昴…借りるぞ』 「…《アポカリプス》…展開」 黒煙の中でミュリエルの呟きは誰にも聞こえることはなかった サバーカの脚力を十二分に使い、正面に《マステマ》の銃口が先にくるように構え、突進するレイア ドスン! という音が聞こえたかと思うと煙の中で両者の動きが沈黙する 完全に煙が晴れた後、そこにあった光景は ミュリエルの腹部を貫いている《マステマ》の刃 しかし致命傷とまではいかない ジャッジプログラムによる勝利判定もない、ミュリエルのギブアップもない つまりまだ勝負は続いているのだ 「《マステマ》の刃は貫き通すためにあらず、《マステマ》の刃は捕らえるために…あるです!」 レイアはそのまま銃口を天高く掲げる 銃口にはミュリエルが刺さったままで身動きをしない…… 彼女の様子を良く見なかったことがマズかった レイアから見たミュリエルは満月と重なり逆光となっていたのだ 「コレで……終わりです!!」 「カルヴァリア・デスペアーーー!!」 『だ、第七聖典!? きまったかぁー!?』 とりあえずそのツッコミは置いといて… そのまま銃口から放たれる高エネルギー波がミュリエルを包んだ…次の瞬間 パン! と音を立ててミュリエルが………『割れた』 普通ならここで大ダメージによるジャッジコールがあるか強制退場となるのだがミュリエルのそれはどちらとも明らかに違っていたのだ その証拠にまたしても勝者コールが聞こえてこない 『こ、コレはどういうことでしょう…ミュリエル選手が倒れたのに勝利判定がありません……』 プログラムエラーでないとすると結論は一つ ミュリエルはまだ……そこにいる 「なっ…確かに手応えはあったハズなのに……」 彼女の周りに散るのは拡散したミュリエルだった物と夜風に舞う桜吹雪 あとはそれを照らす荒城の月……ただそれだけでフィールドの中は風の音のみが不気味に聞こえる うろたえるレイア その動揺が彼女の警戒レベルを一瞬だけ落としてしまっていた 「………Lock 」 レイアの真後ろ… 『なっ!?』 「なんですって……」 《ライトオリジン》を再チャージし終えたミュリエルがその銃口をレイアの後頭部に突きつけていた 『…まだやるか、葉月?』 そこで葉月はやっと納得がいった顔をした 思い出したようだな 『なるほど、そうだった………ふぅ、ここまでみたいね…降参します』 『マスターギブアップ。勝者 ミュリエル!!』 『ぎ、ギブアップです!ミュリエル選手第一試合を勝利で飾りました!!』 呆然となる観客も少しづつ我にかえり拍手や喝采を送り始める 『みゅ、ミュリエル選手が再び現れました…で、では橘さん、先ほどのミュリエル選手はいったい…』 『アレはですね…』 『……バックパックに収納してあった衝撃吸収素材で作られた特殊ダミーバルーン…ですか』 『!!』 綾川さんが俺の言おうとしたことを当ててしまっていた 『彼女がミサイルの撃墜にバックパックを使わなかったこととも辻褄が合います。ミサイルの黒煙は隠れてフェイクのバルーンと入れ替わるためにあえて近くで爆発させたんですよ』 おかしい 『そして入れ替わり、相手の必殺技をやり過ごさせてその後の隙を突く…単純ですがバルーンを展開した後となれば見破るのは至難の業となります』 これは昴が八相の-メイガス-と呼ばれていた頃、あいつの異名の元となった戦術だ ただのフェイクではない 幻の数を多数出現させることができる香憐ねぇの『惑乱の蜃気楼』とは別の、 『完全に同一の物を複製したかのように…-増殖ーしたかのように見せるトラップスキル……ですね』 昔の昴を知っている俺や香憐ねぇでさえ見破るのは至難の業 戦ったことのない葉月にしても、知識としては理解していたはず だか結果としてやられているわけだ アレを見破れる人物なんて早々いないはず…なのに… 少し警戒して彼女を見ると、何事もなかったかのように「なんですか?」というような微笑で俺の顔を見つめ返してくる 『第一試合はアルティ・フォレスト選手とミュリエル選手が準々決勝進出を決めています。それでは一端、CMです」 彼女は…一体… 追記 「桜や、動きはどうなっとる?」 「今のところ、彼女からの新たな連絡はありません」 「そうか、挨拶では少し挑発してみたんじゃがのぅ」 「…調子に乗ってたら彼女に殺されますよ?」 「なんだかホントにシャレにならんの…謝っておいたほうがええか?」 「それが宜しいかと」 「しかし…このまま動かんとなると…ますます嬢ちゃんの言っとった線が濃くなってくるの…」 「…あと、フェレンツェ博士が何かに勘付いている様子でしたが…」 「彼は流石に鋭い。侮れんわい…だが、彼にも話すわけにはいくまいて。嬢ちゃんとの約束じゃからの」 「…兼房様、私で宜しかったのですか?」 「ふぉ。お主が鳳条の名参謀と呼ばれとるのはわしがそう言って回っておったからじゃ」 「は? はぁ…」 「ま、それだけお主を評価してると思っとくれ。ふぉっふぉっふぉ!」 「有り難う御座います、兼房様…」 続く メインページへ このページの訪問者 -
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「当事者って……どういうことだ?」 「そうですね、実際にちょっと試して見ましょうか」 佐藤さんの訝しげな言葉にそうお応えし、マスターさんは視線を佐藤さんの前に座るロゼさんへと移します。 「ロゼさん、と言いましたね」 「……なによ?」 やや不審げなロゼさんの警戒心を解く様に……いえ「たぶらかす様に」笑いかけるマスターさん。 「あなたのオーナーは、どんな方ですか?」 「……はぁ? なんだよそりゃ」 佐藤さんが、不審げな声を上げます。 「どんなって……まぁ一言で言えばバカよね、それも大バカ」 そしてそんな佐藤さんの様子を知ってか知らずか、ごく素直に小悪魔な笑顔で応えるロゼさん。 「てめっ……!」 「まーまー佐藤君、少し黙って聞いてみようよ」 声を上げかけた佐藤さんを、浜野さんが制します。このあたりは、根回しの勝利ですね。 「ほほう、それは一体どのように?」 マスターさんは笑顔でしきりに頷いて、先を促します。 ……ええ、まぁ、現状を一言で語るならば、「釣れた!」といったところでしょうか。 「まずはなんと言っても、考えナシな所よねー。いつもいつも思い付きと勢いでつっぱして、それであとで困ったことになってから後悔してるのよ? だったらまずはちゃんと考えてから行動しなさいって人がせっかく忠告してあげてるのに、全然改めないし」 「それは大変ですねぇ」 「でしょう? 朝なんて人がせっかく起こしてあげてるのに全然起きないし! そんなに眠いなら夜更かしなんてしてないで早く寝なさいっていつも言ってるのに」 「テメーは俺のオカンか!」 たまらず飛び出した佐藤さんのツッコミに、会場からは笑いがこぼれます。ですがロゼさんはお構いナシです。 「それにね、お金に意地汚いのもウンザリよねー。いつも二言目には金がねー、金がねーって。それでバイト三昧だけど、どう考えても無駄遣いをやめる方が先よね」 「そうですね、僕もそう思いますよ」 「でしょでしょ? それからなんと言っても、デリカシーがないのが最悪! レディがいるってのに、お風呂上りにパンツ一丁でうろつくって信じられる?」 「ああ、それはちょっと恥ずかしいですねぇ」 「だらしねぇなぁ」「普段はエラソーにしてるくせに」「辛口ストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「神姫破産か……身につまされるなぁ」「パンツ一丁はいかんよな、パンツ一丁は」「だな、やはり全裸にネクタイが紳士の基本!」「いや、そのりくつはおかしい」「ロゼさん俺も罵ってください」 会場から失笑が漏れ出します。 佐藤さん、奥歯をギリギリと噛み鳴らしつつ、拳を震わせております。と、はたと顔を上げまして。 「って何を勝手に話を進めてやがる! 俺はまだこの勝負を認めたわむぐ?!」 「まーまー佐藤君、ちょっとこのまま見守ってみようか? 大丈夫大丈夫、悪いようにはしないから」 浜野さん、なにやら異様に手馴れた動作で佐藤さんを羽交い絞めにし口を塞ぎます。 さすがにこのあたりで、佐藤さんにも「浜野さんもグル」であることに気付かれたことと思います。 おそらく佐藤さんの脳裏には、「このまま公衆の面前で、ロゼさんにいいようにこき下ろされる」光景が広がっていると思われます。そうして、「武装神姫によく思われていないオーナー」をギャラリーに印象付けて勝負を持っていくつもりだと、そうお思いのことでしょう。 ……お甘いです。 マスターさんの描いたプランは、そんなものでは済みません。すぐに、「その程度で済んでいたら幸せだった」と思い知ることでしょう。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 その間にも、ロゼさんの毒舌ショーは続きます。 「学校でも赤点ばっか、補習ばっか! 最初からちゃんと勉強しておけば、一回で済むのに」 「仰る通りですよねぇ」 だとか。 「買い置きのカップラーメン、気付いたら賞味期限を一ヶ月も過ぎてて……それなのにもったいないからって食べちゃうのよ?! 信じられる!?」 「それはまた大らかと言うかズボラと言うか」 だとか。 「服がバーゲンセールのばっかなのは仕方ないわよ? 洗濯はしてもアイロン掛けまではやらないのもガマンするわ。でも、それで年がら年中あのチンピラルックなのはどうにかして欲しいわね!」 「それはそれは」 だとか。 「野菜は食べない、魚も食べない、食べるのは肉とか脂っこいものばっか。きっと内臓腐ってるわよね」 「一人暮らしだと、気を抜くとそうなってしまいますよねぇ」 だとか。 学業の事から日常の些細な手抜かりから服装のセンスから食生活から、マスターさんの合いの手に乗ってありとあらゆる佐藤さんの欠点が次々と暴露されていきます。 なんと言いますか、佐藤さんをこき下ろすロゼさん、ものすごく輝いています。 佐藤さんは必死にそれを止めようと思っていらっしゃるのでしょうが、浜野さんのホールドはガッチリ決まっていて、身悶えしながらくぐもった声を上げることが精一杯のご様子です。 そんな身動き取れない佐藤さん、目で「泣かす。ロゼのヤツ、後で絶対泣かす……!」と力説しております。 「――それでアタシ、アキに言ってやったのよ! 『アンタ本気でバカでしょ?』って!」 「いやはや、そうでしたか」 まぁ、そんな佐藤さんの必死の思いも、絶好調でトーク中のロゼさんには届かない訳ですが。 と、不意にマスターさんが悲しげな表情をつくり。 「……ロゼさんも、大変ですねぇ」 低い声でぼそりと、しみじみと呟くように言葉を漏らしました。 ……第二段階突入ですね。 「……何よ、急に?」 それまで自分の絶好調トークに心地よい相槌を打っていたマスターさんが様子が変わったことに、ロゼさんが訝しむ表情になります。 そんなロゼさんに対し、マスターさんは「心底同情に耐えない」と言う風を装って言葉を続けます。 「いえその……お話を聞いてる限りロゼさんは、欠点だらけで何一つとして良いところのない、本当にひどいオーナーに仕えることになってしまったんだなぁと思いまして。 武装神姫の側から、オーナーを代える事は出来ないのですよね……お察しします」 「………………………………………………………」 あ、ロゼさんムッとしてます。 これはあれですね。自分が虚仮にするのは良いけど、他人が貶すのは気に入らないという、微妙かつ複雑な神姫ゴコロと言うヤツですね。 しばしの沈黙。 そしてロゼさん、なにやら視線を宙にさまよわせてから。 「……まぁ、その……そんなに全然いいとこなし、って訳でもないのよ?」 そっぽを向きつつ、先ほどまでの滑沢な語り口とは打って変わった歯切れの悪い言葉で、ぼそぼそと言いました。 よい反応です。ですが、マスターさんの追撃は手を緩めません。 「そうなのですか?」 言葉こそ短いものの、とても疑わしげな口調です。言外に「とてもそうとは思えませんけど」という追加音声まではっきり聞こえてきそうな、それほどまでに疑わしげな口調です。 「………………………………………………………」 あ、ロゼさん唇を尖らせています。 また数秒、視線を泳がせてから。 「まぁアキはバカには違いなんだけど……バトルに関してだけはちょっとしたものよね」 今度のお言葉もやや歯切れは悪いながら、先ほどよりもややムキになっていらっしゃる印象を受けるのは私の気のせいでしょうか? おそらく同じ事をマスターさんも感じ取ったのでしょう。沈んでいた表情を明るくし、深く頷きます。 「ああ、そうでしたね。確かこの店で一番の連勝記録をお持ちだとか」 「ええ、そうなのよ!」 ロゼさん、ぱっとお顔を輝かせ、勢い込んで応えました。 「バカアキがデータ確認をサボったお陰で30連勝は逃しちゃったけど、ま、すぐに塗り替えて見せるわよ」 「おや、やっぱり佐藤さんはロゼさんの足を引っ張っていらっしゃる? 不甲斐ないオーナーですねぇ」 「………………………………………………………」 あ、ロゼさんますます唇を尖らせています。 そして今度は視線をさまよわせず、ややマスターさんを睨むようにして。 「……実際に戦ってるのはアタシだけど、作戦とか指示を出してるのはアキだし」 「ほほう、ロゼさんほどの武装神姫が従う、それほどのものであると?」 さりげなくロゼさんと佐藤さんの両方を持ち上げるあたり、さすがはマスターさんです。 果たしてロゼさん、幾分か表情に柔らかさを取り戻しまして。 「ええ、たまーにヘマもするけど、アキの指示は確実だもの」 『たまーに』の部分が必要以上に強調されていたように聞こえたのは、私の気のせいでしょうか。 「ほほう。確かに先ほどお手合わせしていただいたときは、お見事な戦いぶりでしたね。 いやはや、駆け出しとしてはあやかりたいものです」 「ふふん? 知りたい? 教えてあげよっか?」 「おや、教えていただけるので?」 「ええ、構わないわよ」 そう言って、イタズラっぽく微笑むロゼさん。 「簡単なことよ。アキはね、一戦一戦を細かくデータにとって残してるの。その蓄積と分析こそがアタシたちの強さの秘訣って訳。真似できるものならしてごらんなさいな♪」 「なるほどなるほど。確かに僕たちが真似しても、一朝一夕で追いつけるものではありませんね」 「それだけじゃないのよ? アキは装備の分析だってしてるんだから!」 「ほほう、と仰ると?」 「公式販売されてる武装なら一通り……個人作製のだってめぼしいものにはしっかりチェック入れてるのよ!」 「もしかして……全部買っているのですか?」 「ええ、だから情況に応じて装備を選んでくれるし、敵が使ってきたときの対策だってバッチリってワケ」 「それは……すごいですねぇ」 わりと演技でなく驚嘆する、武装購入は節制中なマスターさん。 私もびっくりです。 現在のラインナップを全て揃えようと言うならば、いったいどれだけの資金が必要か……先ほどバイト三昧なのに常々金欠状態だと仰っていましたが、それも当然でしょう。 と言いますか、そうまでしてでもロゼさんに最上の状態を保たせようとする気概には感嘆するばかりです。 私たちの感嘆を受けて、ロゼさんもすっかり機嫌を直されて得意満面です。 「もちろん、どれも飾りじゃないのよ? どの武装だって弾薬代とかケチらずに、アタシが納得いくまで使わせてくれるし。整備だって完璧に仕上げてくれるし!」 闊達そのものに笑うロゼさんに、マスターさんは感心するように、何度も頷きます。 と、少し小首を傾げまして。 「ところでずっと気になっていたのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」 「ん、なに?」 マスターさん、すっとロゼさんの胸元を指差します。そこには、薔薇と剣をあしらわれたエンブレムがマーキングされています。……たしか、GA4アームの肩やサバーカの側面などにも同じものがあしらわれておりましたね。 「その胸元に描かれているエンブレムですが、それはもしかしてオリジナルデザインでしょうか?」 「ああ、これ?」 ロゼさんが、自分の胸元を見下ろし、すぐに顔を上げます。 そのお顔は、今まで以上に輝かんばかりの笑顔です。 「そうよ、アイツがデザインしたのよ。あんな顔してるクセに! ケッサクよね!」 言いながらロゼさん、両手の人差し指を逆ハの字に目の上にかざしました。 「まったくバカみたいでしょ、こーんな顔して真剣になってモニター覗いてさ。 アタシがもう十分って言うのに、いつまでもいつまで手直しすんのよ。 まったく、そんな1ドットや2ドットいじたって変わらないって言うのに、些細なことにこだわっちゃってさー。 ま、その甲斐あって、まぁまぁ見られるエンブレムにはなったけど?」 そんな言葉とは裏腹に、そのエンブレムを誇示するように胸を張り、とてもとても嬉しそうなお顔と口調で語るロゼさんが微笑ましくて仕方ないのですが。 「ま、要するにアキにだって取り得の一つや二つはあるってことよ」 「なるほどなるほど。大事にされてるようですねぇ」 「そうね、まだまだ不足もいいところだけど、とりあえず扱いはそんなには悪くはないかな?」 いえそんな、幸せ絶頂なお顔で言われましても。 と言いますかロゼさん、今の貴女は佐藤さんをこき下ろしていた時よりも何倍も輝いてることに、ご自身でお気づきなのでしょうか? 佐藤さんも、いつのまにやら暴れるのをお止めになっております。 「なるほど、それは素晴らしいですねぇ。いや先ほどは、何も知らずに失礼なことを言ってしまったようで申し訳ありませんでした」 すっかり上機嫌のロゼさんの様子に、わりと素で微笑ましげに目を細めるマスターさん……ですがすぐに作戦を思い出し、すっと俯き思わせぶりに呟かれます。 「ですが、ですねぇ……」 「ん? どうしたの?」 「あー、いえ、別に大した事では……」 「なによ、気になるじゃない」 気になるのでしたら、まさしくマスターさんの術中です。 「いえその、思い過ごしだとは思うのですがね……」 「だから何よ」 「いえ、バトルについて佐藤君が真摯なのは分かりました。先ほど仰っていたバイト三昧も、武装を揃えるための努力とお見受けします。オリジナルエンブレムを一生懸命に考案するあたり、ロゼさんのことを大切にもしているのでしょう。ですが……」 タメ一秒。 「お話を聞いてると、バトルに関してのことばかりだな、と。もしかして、バトルを楽しむためのユニットとしては重宝していても……」 タメ三秒。 「佐藤君は、ロゼさん自身のことはをちゃんと見ているのかな、と思いまして」 「………………………………!」 目を見開き、愕然とした表情で絶句するロゼさん。 いや、まぁ、武装神姫に対して『オマエ実は可愛がられてないんちゃうか』と言う発言は、死刑宣告にも等しいですから仕方ありません。 想像するだけでもこちらまで身震いします。 ……おや? 絶句していたロゼさんも、なにやら身震いを。 「そ……」 そ? 「そんなことないもん!!」 ないもん、と来ましたか。 マスターさんが、ちらりとこちらに目を向けられました。 『堕ちましたね』 『堕ちましたな』 そんなアイコンタクトを一瞬で成立させる私たち。 それはともかく魂の叫びを発露させたロゼさん、そのまま怒涛の勢いで必死に訴えます。 「バトル以外でだって、アキはアタシのこと大切にしてくれるもん! こないだだってアタシが『かわいい服が欲しい』って言ったら、メイド服一式を全色揃えてくれたもん!」 「そこでメイド服がくるか」「なんだよアイツメイド属性かよ」「メイドストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「いきなり全色はやりすぎだろう」「アイツもキャッキャウフフしてるんじゃねーか」「でも、なんか親近感沸くなぁ」「ふ、判っていますねあの青年は。女性を彩りその魅力を最大限に引き立たせる服装といえばメイド服を置いて他にありません。かわいい服を要求されたならメイド服で応える事こそ正解! いえメイド服以外を宛がう事は罪! メイドこそ夢! メイドこそ正義! 夢こそドリームで正義こそジャスティスであり即ちメイドこそ真理! メイドこそ絶対不変なる全宇宙唯一の黄金郷なのです!」 ロゼさんによるオーナー性癖の暴露にギャラリーの皆さんがひそひそひそひそと呟きを交わします。 ……なにやら毛並みの違う方も混ざられているようですが、それはさておき佐藤さんの方も再び浜野さんの腕の中で暴れだしました。 ……そのお顔が真っ赤なのは激しい抵抗を続けているから、だけではないと思われます。 「それにこの間だって、アタシが動物園見たいって言ったら連れてってくれたし! わざわざ、バイト仲間にペコペコ頭下げてシフト代わって貰って時間の都合つけてくれて! お土産に、こーんなでっかいぬいぐるみだって買ってもらえたんだから!」 それでもなお、ロゼさんの暴走は止まることなく「いかに佐藤さんが自分を大切にしてくれているか」を大熱弁です。普段の余裕な雰囲気もどこへやら、すっかりイイカンジにアクセルベタ踏み状態ですね。 「アタシは『お金大丈夫なの?』って聞いたのに、『そんなに抱えこまれたら、今更ダメとも言えねーだろうが』って笑ってくれたし!」 もはやマスターさんも相槌を打っていませんが、ロゼさんの大熱弁は止まりません。 まぁ、それも当然でしょう。 普段、口ではどんな風に言っていようが、所詮は武装神姫。 思考プログラムの根幹にオーナーへの忠誠心を持ち、それでいてそうした強い感情を制御するには武装神姫の精神は人間に比べてずっと純粋で未発達です。 簡単に言えば「武装神姫なんてどいつもこいつも、オーナーのことが好きで好きでたまらない連中ばかりで、隙あらばオーナー自慢をしたくてウズウズしてるに決まってる」と言うことです。 そこを、マスターさんの「押せば引き、引けば押す」巧みな誘導でつつかれたら、もうたまりません。暴走もさもありなん、です。 ほら人間だって好きなことを語り出したら、止まらないものじゃないですか。 「でもそんなこと言って、あとでこっそりバイト増やしてるの、アタシ知ってるんだからね! 睡眠時間まで削ってバイトすることないじゃない!」 なにやら方向性が微妙にズレてきています。が、その根幹にあるのは、変わらずオーナーへの愛。 む、言葉にするとなかなかに照れますね。 「しかもその上夜更かししてまで解析とか分析までやってたら、いつか身体壊しちゃうに決まってるじゃないの! 食事だってロクなの食べないくせに! そんなの絶対ダメなんだからね!」 いやしかし、ロゼさんのデレモードは凄まじいですな。 「プレゼントも嬉しいけど、それよりもずっと一緒にいてくれるだけで十分なんだから、無茶なバイトとかするよりも、一緒にいて欲しいの!」 ご普段がご普段だけに、「私ツンデレ、デレるとすごいンです」と言わんばかりの惚気っぷりです。 ……面白いので、この光景は高音質・高画質で保存しておくこととしましょう、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 「むー! むがー! むぐー!」 「まーまー佐藤君落ち着いて落ち着いて。面白くなってきたところだからさ、ね?」 今までにない必死なご様子で抵抗する佐藤さんも、浜野さんのやたら堅固なホールドの前にはむなしくうめき声を上げるのみです。 先ほどの「『このまま公衆の面前で、ロゼさんにいいようにこき下ろされる』で済めば幸せだったと思い知る」と言うこと、ご理解いただけたでしょうか? マスターさんは「あの手のタイプは、貶されるよりも、手放しで賞賛される方が効くんです」と仰っておりましたが、なるほど抵抗は激しさを増すばかりの佐藤さんのご様子を見ると、まさにその通りであったようです。 あー、いえ、別に佐藤さんを辱めることが目的ではないのですよ? 『佐藤君は、やはり悪い方ではないようです。なのになぜ周囲から孤立しているかと考えれば…… 当然、"誤解されてるから"ですよね』 この三本目の始まる前、浜野さんと私を前にして、マスターさんはそう説明してくださいました。 『誤解をそのままにしておくのは、佐藤君にとっても周囲の方々にとっても、よろしくないでしょう』 『ウチの店にもね』 冗談めかして言葉を挟んだ浜野さんに笑いかけると、マスターさんは言葉を続けました。 『でしたらこれもご縁ということで、手っ取り早く誤解を解かせていただきましょう』 マスターさんのお言葉に、『これも縁だと思って』と佐藤さんとの対戦を勧めた浜野さんが小さくお笑いになりました。 『なに、簡単なことです。彼の本心を周囲に明かしてしまえば、それで済むはずです。そのあたりを、存分に語っていただきましょう』 そこでマスターさん、ややぎこちないながらも愛嬌のあるウィンクを致しまして。 『この場にいる皆さんにとっては、ご本人に語っていただくよりも説得力のあるお方に、ね』 つまりはそういうことです。 ロゼさんの暴走を誘発し佐藤さんの褒め殺し(誤用)を発生させたのは、孤立しがちのようであった佐藤さんを『周囲の皆様と』和解させる、和解プランのあくまで「手段」なのです。 そしてその成果はと言いますと。 「なんだかんだ言って、あいつも武装神姫を大切にしてたんだな」「ロゼちゃんも慕ってるみたいだし」「デレモードストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「いけすかねぇバトルジャンキーだと思ってたけど……」「ちょっと佐藤のこと誤解してたかも」「あれか、『武装神姫を愛するやつに悪いやつはいない』ってやつか」「もっと話し合ってみてもよかったかな」「そーだなー」 いやはや、プランは怖いくらいに順調に進行中です。 佐藤さんともどもロゼさんを手玉に取り、情況を思い通りに動かしていくマスターさんのお手並み、感服する他ございません。 マスターさんは、敵に回すべきではございませんね。いやもちろん、叛意を抱こうなどという気持ちは毛頭ありませんが、仮にそのような二心を抱いても、私如きではかなうはずなどありません。 ……ちなみに。 マスターさんによれば、このような公開羞恥プレイじみた手段をとらずとも、時間をかける事さえ出来ればもっとスマートなやり方もあったとの事。しかしあえてこういった荒療治を選択した理由はと言えば。 『まぁ本意はどうあれ、犬子さんを侮辱されたのも事実です。その分の溜飲くらいは、下げさせてもらいましょうかね、くすくすくすくすくすくす』 いやはやまったく、マスターさんを敵にすべきでありませんよ、本当に。 と言うわけで、本心はどうあれ敵対してしまった佐藤さんには、存分に堪能していただきましょう。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 「いつもいつも乱暴な言い方して嫌われて、それで後悔する位なら、余計な口なんて効かなければいいのにっていつも言ってるのに!」 「むぐっ! むががっ! むぐー!」 「アタシはアキの本心わかってるからどんな言い方されてもいいけど、他の人はそんなに察しはよくないの! ううん、アキのせっかくの善意も判らないようなヤツらに、アキの忠告はもったいないんだから!」 「むがむぐ! むぐぐー!」 「そうよ、アキの判断は日本一、ううん、世界一なんだから! アタシは知ってるもの、だってずっとアキの指示に助けられてきたんだもん! この間だってね―――」 「むがー! むががー!! むぐぅおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおお!!」 そんな、ロゼさんの「いかに佐藤さんが素晴らしく、自分がいかに佐藤さんを大切に思い、なおかつ大切に思われてるか」の大熱弁は、佐藤さんのうめき声をBGMに、勢いを衰えさせることなく10分ほど続いたのでした。 そして、兵どもが夢の跡。 10分が経過したステージ上では。 至極上機嫌な浜野さんがにこやかに笑い。 興奮状態が続いたためにオーバーフローを起こされたらしいロゼさんが、焦点の定まらぬカメラアイでペタンと座り込み。 精神的にも肉体的にもギリギリまで追い詰められて疲労困憊な佐藤さんが机に突っ伏して肩で息をし。 そんな彼らをギャラリーの皆さんがやたら温かい笑顔で見守る。 そんな情況が展開されております。 『はーい、では三本目のオーナー自慢勝負ですが』 浜野さんが、再びマイクを手に司会を始めます。 どうでもいいですが、アレはそんな勝負でしたか。 『佐藤君はご覧の通りの有様で、これ以上の続行は難しそうです』 ギャラリーの皆様からは自然と、佐藤さんの健闘(?)を讃える拍手がこぼれます。 『さて、どーしましょうかね?』 「どうしましょうか?」 「どういたしましょう?」 正直なところ、もう既に私たちの目的は全て達成しているのですよね。 私が、『何も出来ない』武装神姫でないことは暗算勝負において証明し。 佐藤さんと周囲の方々の溝も、ロゼさんのご活躍によってある程度は埋まり。 ついでに、私どもの溜飲も、十分に下げさせていただきました。 ですので、これ以上続ける理由は、既に私達にはないわけです。 「そうですねぇ。僕としては、このまま試合終了と言うことにしてもらっても構いません。 なんでしたら、僕達の方の試合放棄で佐藤君たちの勝利という形にしていただいても……」 「まーだーだーっ!!」 不意に佐藤さんが再起動されまして、そう叫びつつ立ち上がり、びしっと私たちを指差します。 「今更負け逃げなんて許すかー! オーナー自慢、お前らにもきっちりやってもらうっ!!」 ……なんと言いますか、佐藤さんからは「死なばもろとも」というオーラが出ています。 これはあれですか。自分たちが晒し者になった以上、私たちにも同じ辱めを受けさせねば溜飲が下がらぬと言う、そんな心理でしょうか。 実に後ろ向きですね。 ですが、まぁ……佐藤さんの瞳は真剣そのもので、こちらも同じ事をせねば収まらないご様子です。 確かに一応は勝負の体裁をとっている以上、こちらも同じ事をするというのも道理ですし。 私はマスターさんを振り返ります。 マスターさんも同じお気持ちらしく、やや苦笑いのご表情ながら、頷いて下さいました。 『はいではー、話もまとまったところで、今度は犬子さんのオーナー自慢、いってみましょー』 ギャラリーの皆さんから、拍手が沸き起こります。 仕方がありません。今度はわたしの番と言うことで。 とはいえ……私はちらりと、ロゼさんに目を向けます。 ロゼさんはまだ再起動を果たされていないようで、焦点の定まらぬカメラアイでぼんやりと俯いていらっしゃいます。 ……あまり野放図に行くのも問題ありですね。 私までもが暴走しないためにも、佐藤さんほどにマスターさんを晒し者にしないためにも、リミッターを設定しておくとしましょう。 適当にオーナー自慢をこなしさえすればそれで収まるでしょうし、その結果ロゼさんのオーナー自慢に及ばず敗退となったとしても、もはやこの局面になったなら、勝敗を争うことに意味などありませんし。 そうですね、まぁ50%程度に設定しておけばよいでしょうか。 こほん。 「では、僭越ながら……」 ……ふと、我に返りました。 思考回路ステータスの状態が限りなく最悪に近い状態を示していて、現状の把握がうまく出来ません。 気が付くと、体内時計はあれから30分ほど経過していることを示しています。 この30分の間のことを思い起こそうとするのですが、なにやらログデータにノイズが多く、はっきりとしません。 断片的に残ったデータでは、どれも私がマスターさんを褒めて褒めて褒めて褒めちぎっておりまして、ドッグテイルはどの時点でもMAX稼動で、そこに時折マスターさんの「もういいですよ」「それで十分ですから」「そろそろその辺で」「あの、犬子さん?」といった制止のお言葉が混ざっておりますが……。 一体、現状はどうなっているのでしょう? 私は、稼働率が著しく低下してる思考回路をなんとか騙し騙し回転させつつ、周囲に目を向けます。 その結果、目に止まったものは……。 塩の柱と化しているギャラリーの皆さん。 お口から魂が抜け出ているかのような佐藤さん。 真っ赤なお顔で俯いているロゼさん。 苦笑いの表情をされている浜野さん。 それから……。 「もう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してくださいもう勘弁してください」 土下座で――座礼ではなく、正真正銘の土下座でうわ言のように「もう勘弁してください」と繰り返すマスターさんのお姿でした。 えーと……。 何かを言うべきだ、現状を何とかしないといけない、とは思うのですが、霞がかかったような今の私の思考回路では、何を言えばいいか、どうすればいいかがうまく判断できません。 そんなオーバーフロー気味の思考の中で、とりあえず私は。 「……今度同じ機会があったら、リミッターは25%に設定しましょうかね……」 そんなことを呟いてみるのでした……。 その後のことを、少しお話しせばなりません。 結局佐藤さんとの勝負は、両者戦意喪失と言うことで無効試合となりました。 もともと勝敗にこだわっていたわけでなし、遺恨を残さないという意味では願ったりの結末と言えるでしょう。 ええ、もちろんあそこまでマスターさんを辱めることになるなどとは、私たちのどちらも想像などはしていなかったのですが……。 なんと申しますか、佐藤さんともども多くのものを犠牲とした、当事者たちには凄惨極まりない争いでした……。 願わくば、失ったモノに値する何かを手に入れることが出来たと信じたいところです、ええ……。 それぞれの方々はといいますと。 「はははは、二人ともお疲れ様ー」 浜野さんは、いつも通りです。 あの後も、再起動しないままの私たちを手早く撤収させ、ステージも効率よく片付け、通常業務に戻られました。 お仕事は本当に大丈夫だったか、と後に改めてお聞きしたところ、「盛り上がったからいいんじゃない?」と、実にあっけらかんとしたお答えが返って来ました。 とはいえ実際、もともと佐藤さんの30連勝を祝うゲリライベントの企画はあったとの事で、ちょうどいい穴埋めイベントになったとか。 そう言っていただけると、色々とご面倒をかけてしまった手前、多少は気が楽になります。 今日も浜野さんは、にこやかにフレンドリーにお仕事をこなされる事でしょう。 「まぁでも……オーナー自慢はほどほどにね?」 最後にそう、しっかりと釘を刺されてしまいましたけれども。 「よう、ツンデレコンビ」「調子はどうだツンデレコンビ」「ツンデレストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「頑張れよツンデレコンビ」「応援してるぞツンデレコンビ」「なんか困ったことあったら言えよツンデレコンビ」 「「ツンデレコンビ言うなーっ!!」」 佐藤さんたちは、あれから大分周囲の態度が軟化したようです。 あれだけ赤裸々に心のうちを暴露されて誤解も何もなくなった上に、あれやこれやの恥ずかしい秘密の数々に、共感を覚えた方々がいらっしゃってのことのようです。そういった方々から親しく声をかけられるようになり、今ではすっかり地元馴染みの期待のエースとなっております。 その寄せられる期待の中に、弄られキャラとしてのものもあるのがご本人たちには不満なご様子ですが、それもまた有名税と言うことで諦めていただきましょう。 私たちともその後親しくして頂き、何度もアドバイスをいただきました。 相変わらず言葉は乱暴ですが、そうと心得ればそれもアドバイスと読み取れるものでして、特に腹を立てることもなくありがたく受け入れております。 そしてあの方々自身も、再び30連勝に向けて意欲的に取り組んでいるようです。 もともと実力のあるお方たちです。今度こそきっとそれを成し遂げてくれることでしょう。 そしていずれ、周囲の期待に応えて全国区に名前を轟かせてくれることと信じております。 ……そうして程よく名が広まった頃を見計らって、例のデレモード動画をこっそり流出させることにいたしましょうか。 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 そして私たちはといえば。 「作戦上の演技とはいえ、佐藤君を貶しロゼさんを弄んでしまった、その因果応報でしょうかねぇ……ふふふふふ、いや『人を呪わば穴二つ』とはよく言ったものですよ……」 「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!」 「あはは、あは、そんな謝らなくても、もう気にしてませんから、犬子さんもお気になさらず…… ……と言いますか、もうこの話題には触れないようにして頂けると、いえいっそもう全部忘れてもらえたら有難いのですねぇ、あははは……」 思考回路が完全復旧し自分のしでかしたことを認識した私は、それこそ全身の電圧が下がる想いで正真正銘の土下座で許しを乞うたモノです。 寛容にもマスターさんには快くお許しはいただけましたが、私が『同じ機会があったら今度は25%で』というお話をしたところ、即座に『5%でお願いします』と切り返されたことが印象深いです。 ……私はマスターさんに対し、一体どれほどの羞恥プレイを強いたのでしょうか。 想像するだに空恐ろしく、確かめることなどとても出来そうにありませんです、はい……。 申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません……! あとはいつも通り……と言いたいところなのですが、じつはささやかな変化がありまして。 いえ、まぁ、大した事ではないのですがね……。 私たちが誤算していたことに、自分たちは単なる一介の武装神姫とそのオーナーだと思っていたのですが、どうやら潜在的な知名度はそこそこあったらしいのです。 もちろん「名前が知られている」だとか「敬意を払われている」と言う情況には程遠いのですが、敗戦のたびに(つまりバトルのたびに、です、とほほ)休憩スペースで神姫に正座させて向かい合って深々と頭を下げあうコンビは、私たち自身が思っていた以上にご周囲の印象に残っていたらしく、「ああ、あいつ等またやってるなぁ」くらいには存在が知られていたとのことで。 それでもそれだけならばあくまで潜在的な知名度に留まっていたところを、今回の大立ち回りで一気に神姫センターの皆様に名前が広まり、すっかり顔を知られたちょっとした有名人状態となってしまったのです。 それも……。 「よう、土下座ハウリン」「調子はどうだ土下座ハウリン」「土下座ハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「頑張れよ土下座ハウリン」「応援してるぞ土下座ハウリン」「なんか困ったことあったら言えよ土下座ハウリン」 「ご、ご声援……ありがとうゴザイマス……!(引きつった笑み)」 ……本気を出し(て惚気)たら、自身のオーナーすらも土下座で『もう勘弁してください』と平謝りさせる、 キョーフの<土下座ハウリン> の二つ名と共に……です。 ……ええ、これはあくまで自分の行為の結果です。 些か不名誉で納得のいきかねる二つ名ですが、それも甘んじて受け入れましょう。 ですが。 ですがどうか後生ですから、この二つ名の成立のいきさつだけは、何卒御内密にお願いしまする……っ! 神姫三本勝負とはっ! とあるローカル神姫センターが発祥と言われる、 オーナー間あるいは武装神姫間で揉め事が発生した際、 一本目の勝負に負けたオーナーが、 二本目に自分に有利な勝負を提案、 それを以ってイーブンとした上で、 三本目には武装神姫自身にオーナー自慢をさせ、 当事者及び周囲の毒気を抜き、 全てをうやむやのうちに鎮静化させる、 限りなく出来レースに近い あくまで『平和的解決手段』でありっ!! 『決着方法』ではなかったりするっ!! <その15> <その17> <目次> ○今回のエピソード作成に当たり、多大なるご尽力いただいたALCさまに、改めまして厚く御礼申し上げます。
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神姫ちゃんは何歳ですか?第二十七話 スーパー神姫TIME 書いた人 優柔不断な人(仮) 「っと…そろそろ時間だな」 俺はTVのリモコンを取り、スイッチを押した 「あれ?センパイ、この時間何か見てましたっけ?」 「今までは見てなかったが、今期の番組改編で新番組が始まるじゃないか」 「あ、今日でしたっけ?『スーパー神姫TIME』」 そう、とうとう神姫もゴールデンタイムに番組が放送されるまでになったのだ 『スーパー神姫TIME』は54分の番組で、キャッキャウフフからハードなバトルまで様々な神姫ライフ情報を提供するというコンセプトで作られるという 番組内にはマスターと神姫を迎えてインタビューを行う『神姫マスターズ』というコーナーがあり、その第一回のゲストとして、観奈ちゃんが呼ばれたのだった 『すぅ~ぷぁ~~~すぃんきとぅぁ~~~~いんむ!』 「あっ、お兄ちゃん、始まったよ」 …なにこの30年前のタイトルコールは… TVには男性と女性の姿が映し出された 「皆さんこんばんわ。今日から始まりました『スーパー神姫TIME』。司会は私、富華 三根雄です」 「皆さんこんばんわ~。アシスタントの浅木マキで~す。よろしくおねがいしま~す」 「それでは早速、最初の…」 と司会の富華が言いかけたところに 「ちょっとまったー!二人共、大事な事を何忘れてない?」 と、なにやら小さな女の子の声が割り込んだ 「おおっと、これは失礼。もう一人のアシスタントを忘れてました」 「全く!この超絶ぷりちーな私を忘れるなんて有り得ないんじゃなくて?」 「ほらほら志緒理ちゃん、怒ってないで皆さんに自己紹介して」 カメラがずいっと下へと向けられる テーブルの上には一体の神姫と、さらに小さなヌイグルミのような物体がいた 「あっ…えっと、この番組のアシスタント神姫、シュメッターリングの志緒理です、宜しくお願いします」 ぺこり 「志緒理、今更カワイ子ぶってもおそいんじゃねーの?」 志緒理の隣のヌイグルミ?が喋る 「んもうー!なによー!私は可愛いから許されるのよ!それより、アンタも自己紹介しなくていいの?」 「っと、そうだな。オイラはしおりのお目付役のガンノスケってんだ、ヨロシクな!」 手を振り、挨拶をするガンノスケ 「んもう~、誰がお目付役よ。私が居ないと何も出来ないのはガンノスケの方でしょ!」 「オイラは志緒理が暴走しないように…」 「まぁまぁ二人とも、そのくらいにして。番組が進まないじゃない」 「志緒理ちゃん達には後のコーナーで存分に喋って貰うとして、まずは最初のコーナー、『バトルアリーナ』からどうぞ!」 「このコーナーは武装神姫バトルの中でも、特に名勝負と呼ばれている物を解説を交えてお送りしていきます」 「ふえー、スゴかったねぇ」 感嘆の声を上げる志緒理 「アーンヴァルとストラーフは初期のモデルですが、それだけに数々の名勝負を繰り広げてきました。この第一回大会の二人も、決勝戦に恥じない試合を見せてくれました」 遠い目をしながら説明する富華に、浅木も頷きながら 「最後のデモニッシュクローが出たときにはゲルダの勝ちかと思いましたが、ギリギリで静名がレーザーライフルで防ぎましたね。ライフルがベッコリとへこんじゃいましたけど」 志緒理もそれを聞きながら 「その後、その反動を利用してその場で一回転して壊れたライフルで殴るなんて、よく出来たよねー」 とウンウンと頷きながら言った 「あの後のインダビューでは本人も『咄嗟のことで、何をしたか分からなかった』と言ってましたよ」 「こーいうのは日頃の訓練が大事なんだよ。志緒理もサボってないで、普段からトレーニングしとけよ」 「うーっ、わかったわよぅ」 ガンノスケの言葉に頬を膨らませながらも応える志緒理 「それでは、CMの後は『神姫マスターズ』、第一回ゲストはファーストランカーの國崎観奈ちゃんとミチルちゃんでーす」 CM後、セットが対談用へと変わっていた テーブルが一つ、テーブルから向かって左側には長椅子があり、富華と浅井が座っている。右側にはゲスト用の椅子があり、観奈が座っていた テーブルの上には神姫用の椅子が置いてあり、志緒理とミチルがそれぞれ座っている アシスタントの浅木の声でコーナーは始まった 「それでは、『神姫マスターズ』のコ-ナー、ゲストは國崎観奈ちゃんとその神姫、ミチルちゃんでーす」 「うむ、よろしくなのじゃ」 「よろしくなのだ」 ペコリ、とお辞儀をする観奈とミチル 「早速なのですが、お二人は神姫バトル歴が長いと聞きましたが」 「うむ、そうじゃな。テスト期間から始めていたから…かれこれ5年になるかな?」 「5年って…7歳の頃からやっていたのですか?」 「まぁそういうことじゃな」 「どうでしょう、最初の頃と今とでは、バトルも様変わりしましたが?」 「最初の頃はヴァーチャルシステムも無かったし、社外武装も使用禁止じゃったから、皆限られた範囲での試行錯誤の繰り返しじゃった。それも2弾が出たときのバランス変更でパァにされたりと、なかなか面白かったぞ」 「ああ、通称『犬猫パッチ』ですか」 「そうじゃ。その後の社外武装解禁、ヴァーチャル戦の導入等、神姫バトルも様変わりしていったのじゃ」 観奈の話を聞きながら、富華がぽんと手を叩き 「そうそう、その頃のミチルちゃんの映像が残っていたのですよ」 と言い出した 「なに?まことか?」 「…なにかイヤな予感がするのだ…」 富華の言葉に喜ぶ観奈と、不安そうなミチル 「それでは、映像どうぞ!」 富華の言葉を受け、セットにあるモニターにスイッチが入る そこに写ったミチルと思しき影に、浅木が疑問の声を上げる 「あー、ミチルちゃん…ですか?なんか今と違いますね?」 「この頃はまだ、今のような白い翼は付けていないからじゃな」 観奈の言葉通り、画面の中のミチルには象徴ともいえる6枚の白い翼は無かった ヴァッフェバニーの装備にアンクルブレードを持ち、棘輪を腰に下げていた 「この頃は、ヴァッフェバニーの装備を主体にしておったからな」 「でも、リアブースターに6枚のスラスターを付けてるのね」 「なかなか目敏いな、志緒理殿。最低限の防具に機動ブースターが付いたヴァッフェバニーの装備はミチルに最適じゃったのじゃ。しかし、それでもヤツには追いつけなかったので、スラスターを追加して挑んだのじゃ」 「ヤツって…この人?」 志緒理が指した先には、一体のハウリン型が映っていた 「この人、足の狗駆しかつけてませんよ?」 「当時を知らない志緒理殿が訝しがるのも無理はないな。彼女の名は『ストレイト』クウガ。当時誰も追いつけなかった、最速の神姫じゃ。いや、今でも追いつける者はおらんじゃろうな」 「ふえー、そんなスゴイ人なのですか?会ってみたいなぁ」 「残念じゃが、それは無理じゃ。彼女はもう…」 観奈の言葉にスタジオ内が、暗い雰囲気になる 「いくら安全に配慮されているとはいえ、事故と言うものは起きるのだ。でもあたしたち武装神姫は、そのくらいの覚悟を持ってバトルに参加してるのだ」 「そういうことじゃ、しかと見ておくのじゃ。クウガ殿の勇姿を」 「う、うん」 観奈とミチルの言葉に頷き、画面をしっかりと見据える志緒理 「あっ、ジャガーだ!…この頃はまだ普通のぷちますぃーんボディを使ってるのね」 試合開始 開始と同時にジャガーが牽制の射撃を行った 『…遅い』 画面の中のクウガが呟くと同時にその姿が消える ガキィッ! 否、瞬時にミチルの傍へと移動したのだ 「うそっ?なんて速さなの?」 「大抵の相手はこれで終わるのだ。この時あたしが防げたのも、運が良かったといってもよいくらいなのだ」 『ほう…剣でギリギリ防いだか…』 『くうっ…とりゃっ!』 アンクルブレードを盾に、クウガを押し返し距離を取るミチル。そしてすぐさま棘輪を投郭する ダンッ!ギュン! しかしそれをアッサリと避けるクウガ そしてすぐさまミチルへと2撃目のキックを放つ バシュッ 間一髪スラスターを吹かし、これを避けるミチル 『なかなかやるな…しかし』 ギュン! 有り得ない程鋭角に、ミチルへと向かい跳ぶクウガ 『まだまだ速さが足りない!』 ミチルへと三度キックを放つ しかし ザシュッ! 『やっと、捉えたのだ』 これまでのクウガの行動を分析し、攻撃パターンを掴んでいたミチルは、次に攻撃が来るであろうポイントにブレードを振っていたのだった クウガの足が切断され、ブースターを吹かしながらクルクルと飛んでいく 『ぐっ!』 苦痛に顔を歪めながらも、なんとかその場に留まるクウガ ゲシッ! そんなクウガに容赦ない追撃をかけるミチル 蹴り飛ばされ、地に伏せるクウガ ミチルはクウガを踏みつけ、アンクルブレードを構える 『これで、あたしの勝ち…』 スコーーン! ミチルの言葉は、飛んできた何かによって中断させられた 「…ねぇ、今の何?」 モニターを真剣に見ていた志緒理が怪訝そうな声を上げる 「…狗駆…というか、クウガの脚?」 同じく、呆気にとられていた浅木が答えた ブースターを吹かしながら飛んでいた脚が、何の因果か戻ってきて、ミチルの後頭部へと直撃したのだった 『きゅぅ…』 完全にフリーズして、倒れるミチル 『ミチルのノックアウトを確認。勝者、クウガ!』 クウガの勝利が告げられる中、ミチルはその先にいたクウガへと倒れ込んだ ガツン! 『!!』 クウガの上に覆い被さるように倒れたミチル ミチルの顔が、クウガの顔にぶち当たる というか… 「うわっ!ミチルちゃんとクウガさんが、ちゅーしてる!」 浅木の言葉に、スタジオ大爆笑 「あ、あれはノーカウントなのだ!意識してないし、というか意識無いし!」 顔を真っ赤にしながらパタパタと手を振り全力で否定するミチル 「あはは…ファースト上位のミチルちゃんも、こんな事があったんですね」 「うーっ、この油断が無ければ…」 「そうじゃな、あの後もずっとクウガ殿には勝てなかったのじゃからな」 「えっ?もう攻撃は見切ったんじゃ?」 観奈の言葉に疑問の声を上げる志緒理 「次の対戦で同じ事をやったのじゃが、ミチルが剣を構えるよりも先に蹴り飛ばされてKOされたのじゃ」 「うっそ…」 「自分が成長してるのと同じように、対戦相手もまた成長してるのだ」 「観奈ちゃんもミチルちゃんもそうやって成長してきたんですよね」 「そう言われると、照れるのじゃ」 「ところで観奈ちゃん、今現在、気になる神姫というを教えて欲しいのですが」 「そうじゃな…ファーストの神姫はほぼ気に掛けておるが、ここは注目のセカンド神姫を挙げておくのじゃ」 「観奈ちゃんが気になるセカンドの神姫ですか」 「まずはセロ殿じゃな。地元では『クイントス』と呼ばれており、ファンも多いそうじゃ」 「鳳凰杯の決勝トーナメントの第一回戦で戦った神姫ですね」 モニターが切り替わり、ミチルとセロとのバトルが映し出される 「剣の腕前はもとより、優れた洞察力もある素晴らしい神姫じゃ。スグにでもファーストでも通じるだろうに、何故セカンド中位にいるのじゃろうか」 モニターではムラサメが破壊されたシーンが映し出されていた 「次に挙げるのは…『雷光の舞い手(ライトニング・シルフィー)』ねここ。高機動と重装備を両立させている、数少ない神姫じゃ」 画面が切り替わり、アーンヴァルの武装を中心に組み上げた武装『シューティングスター』を振り回し、フィールド中を駆け回るねここの姿が映し出される 「ほぼ公式装備で組みながら、要所にはオリジナルパーツを組み込まれておる。マスターのセンスも光る神姫じゃ。」 必殺の『ねここフィンガー』を決め、相手のストラーフ型を沈黙させるねここ 「ちなみに、地元での人気は絶大で、最近ファーストに来た『マジカル☆ハウリン』ココと人気を二分しており、ファンクラブまであるそうじゃ」 モニターにはフリフリの衣装を着たココが口上を述べている所が映し出された 「あと、セカンドでは無いが、鳳凰杯の時に不慮の事故で記憶を失ってしまったミカエルも注目じゃな」 「オーナーの鶴畑大紀さんもファーストの称号を返上してしまいましたね」 画面には圧倒的火力でフィールドこと相手を焼き払うミカエルの姿が映し出される 「サードからの再スタートということで勝手が違うじゃろうが、あの二人ならまた勝ち上がってくるじゃろう」 「その三人が、観奈ちゃん一押しの神姫ですか…っと、そろそろ時間になってしまいましたね」 ADの合図を見た富華が申し訳なさそうに言った 「それでは観奈ちゃん、最後に視聴者の皆さんに、何かメッセージをお願いします」 「武装神姫で大切なのは、神姫を信じる心じゃ。信頼無くしての戦いはありえんのじゃ。たとえ負けても、ちゃんと得る物はあるのじゃ」 「有り難う御座いました。本日のゲスト、國崎観奈ちゃんとミチルちゃんでしたー!」 パチパチと拍手に見送られ、退席する二人 「神姫を信じる心、か…」 俺は次のコーナーの新作情報で映し出されている新型機の『アーク』と『イーダ』を見ながらボーっと考えていた 「…センパイ。以前のことを考えているのですか?」 「皐月にはお見通しか…」 皐月の指摘通り、昔の事を考えていた 神姫を道具としてしか見ず、ユキに過酷な試験ばかりをさせていた日々を 「でも、今は信じてるんでしょ?」 「ああ…」 「なら、それでいいじゃないですか」 「…そうだな」 俺はエンディングを歌う志緒理ちゃんを眺めながら、今のみんなの幸せを壊すまいと誓うのだった 『きょうのまおちゃお~』 『マオチャオは今日も日向ぼっこ。大好きなマスターの帰りを待ちながら、窓際でうつらうつら』 「うにゃぁ…ごしじんさま、だいすき…むにゃむにゃ…」 『あらあら、どんな夢を見ているのでしょうね』 ピクッ 『おや?マオチャオの耳が動きましたよ?』 ガチャガチャ…カチャッ 「ただいまー」 「おかえりなさい、ごしじんさま!」 『満面の笑顔でマスターを出迎えるマオチャオ。よかったね』 -END- あとがき なんとか生きてます、優柔不断な人(仮)です 今回はss掲示板の方で上がっていた「百質」をみてたら思いついたので、それで一本書いてみました 未だに妄想の人さんに言ったコラボssも書けてないのにスイマセン ちょっち補足 観奈とミチルがクイントスの事を本名のセロと呼んでおります これは鳳凰カップではクイントスは通り名で、あくまでもセロとして参加し、アナウンスもそうであったと考えられるので、観奈達が紹介する時にもそっちを使ったと考えるからです ミカエルに関しては、大紀が改心し、技術の蓄積も有ることからこれから強敵になるであろうと予測した為です ちなみに最後の『きょうのマオチャオ』は独立した五分番組です。提供は勿論、BLADEダイナミクス(もしくはKemotech)です さらに、今回の番組出演者の設定 富華 三根雄(ふか みねお) フリーのアナウンサー。45歳 神姫バトルの中継では実況も務める。その実績を買われ今回のメイン司会者に抜擢された 浅木 マキ(あさき まき) TV局のアナウンサー。24歳 若手女子アナウンサー。自身も神姫を所有しているが、上前はサード中位。どちらかというと、神姫と遊んでいる方が好き 志緒理(しおり シュメッターリング型) デモを兼ねてスポンサーから番組へと贈られた神姫 歌って戦う神姫を目指してる 彼女が歌う番組エンディングテーマも番組開始と同時に発売 「みんな買ってね(はぁと」 ちなみに所有者は番組のプロデュサーという事になっているが、ADの一人を気に入っていて、マスターそっちのけでつきまとってるらしい ガンノスケ 志緒理付属のヌイグルミ型支援マシーン『ラビボン』 主にツッコミ担当 志緒理とガンノスケは『スーパーしおりん』へと合体出来る …らしい
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ラジロンのうた (武装神姫RADIO RONDOより?) http //www.nicovideo.jp/watch/sm2026248 http //www.nicovideo.jp/watch/sm2026248 2008年01月13日 19 52 38 投稿 Vocaloid2のオリジナル曲 使用Vocaloidは初音ミク 製作者は武装歌劇派 一つ前のページにもどる
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初バトル、七月七日、七夕。 一ヶ月の間、私は数十店の神姫ショップを歩き回った。地元の茶畑が広がるような田舎では流石にショップはないので、電車で一時間、お隣の県の大都市まで足を伸ばしたり、バスで三十分揺られ最寄りの商店街をブラブラしたりした。 というのも、お兄ちゃんが買ってきた神姫、マリーは素体のままで武装やアクセサリは全く無かったからだ。私は特別バトルがしたいというわけでもなかったので、彼女が身に付けるものは彼女に選ばせようとして、彼女が気に入るものが見つかるまでいろんな店を回っていたのだった。 まずマリーはあまり実戦的ではなく、どちらかというと観賞用のウォードレスを選んだ。一応ワンピースのそれは防御力はあまり期待できないものの、フリルの可愛いディティールは全部自動迎撃用のレーザーガンで、また申し訳程度の飛行機能も付いていた。 「すごいすごい!マリーが浮いてる」 ふわふわとドレスの裾を揺らしながら彼女は私の周りを何週か回って見せた。 「便利ですわ」 彼女は私の左肩に着地した。それから私を見上げて微笑む。 彼女の笑顔は完璧、百点満点だと思った。 別の日、彼女はようやく武器を手にした。彼女は先に買ったウォードレスに合わせてその武器――ロンブレル・ロング(L ombrelle longue)を選んだようだ。 それはどうみても、日傘。日傘(L ombrelle)って名前付いてるし。武器の性能としては、ライトセーバーとライフルの能力を併せ持つハイブリッドウェポン。ライフルは威力も装弾数も実戦で使えるギリギリのレベル。まあ、早い話がこれもまた観賞用のアクセサリなのだ。 「可愛いよ、マリー」 「ありがとうございます。わたくしもこれで、いつでもバトルが出来るようになりましたわ」 マリーは傘を開いて傾きかけた日差しを遮る。淵の白いフリルが揺れた。 「え?マリーはバトルしたいの?」 左肩に座っていた彼女は私がそう問いかけると、浮き上がって私の胸前にやってきた。私が歩くのと同じ速度で移動し続ける。 「だってわたくしは武装神姫ですのよ?」 「いや、うん、そうだけど。だったらもう少し強そうな装備選んでもいいんじゃない?」 「ダメですわ。時裕様がわたくしは人形型だとおっしゃっていました。ですからわたくしは人形らしく振舞わなければいけませんの」 ああ、そういえば細かい設定は全部お兄ちゃんに任せていたな、と私はぼんやりと思い出した。神姫の性格がCSCの埋め込み方によって変わるといっても、もっと繊細なところはこちらで設定してあげなければいけないらしい。かなりめんどくさそうだったからお兄ちゃんに頼んだのだけれど、正直かなり失敗だったと思う。 「へえ、人形型なんだ」 「はい。人形型MMSノートルダムですわ」 勝手に決められたということを怒るよりも、私はやけに細かい設定に関心していた。 ノートルダムか、と考えると少しにやけてきてしまう。お兄ちゃんらしい名前の付け方だなと思ったからだ。 「でもバトルってどうやるんだろうね」 「とりあえず...ショップ設置の筐体で草バトルと呼ばれる非公式戦ですわ。」 私はふーんと鼻を鳴らしながら早速視線は最寄りの神姫ショップを探していた。 学校帰りの商店街には二店舗、神姫を扱う玩具屋があり、この近くにはそこしかバトル筐体を置いているところはなかった。 「あそこだね」 カトー模型店、商店街の長屋にあるお店としては大きいほうの店構えで、数ヶ月前に改装されたショップだ。もともと地味だった模型店がここまで立派になれるのも神姫ブームのおかげだろう。 午後五時半、私と同じように学校が終わった学生の神姫マスターたちが集まってなかなか賑やかだ。 「やあ、のどかちゃん、いらっしゃい」 「こんばんは、カトーさん」 マリーの装備を選ぶとき、最初に訪れたショップがここだった。お兄ちゃんもここの常連で、店長のカトーさんと顔見知りだということもあって、いろいろ相談に乗ってくれたのが強く記憶に残っている。カトーさんはここにないようなパーツを他の店にはあるからといって紹介してくれたりもしてくれた、いろんな意味でいい人だ。 「マリーちゃんもいらっしゃい」 「ごきげんよう、カトー様」 「ドレスモデルのウォードレスか。なかなか可愛い物を見つけたね」 マリーはスカートの裾を摘み、膝を折って行儀よくお礼をした。 「今日はお兄ちゃん、もう来ました?」 「時裕君?いや、そういえばまだ見てないなあ」 そうですか、と言って私は、私と同じ学校の学生服を着た男の子たちによってバトルが繰り広げられている筐体のほうへ視線を向けた。 お兄ちゃんは一度この店に足を踏み入れると三時間は出てこないので、もしお兄ちゃんが店にいれば、今日は止めておこうと思ったけれど、カトーさんの言葉を聞いていよいよ心臓がドキドキし始める。 「バトルかい、のどかちゃん」 カトーさんは丸い黒縁眼鏡を掛け直しながら言った。 「はい。初めてなんですけど...」 「そりゃよかった。やっぱり武装神姫はバトルが一番楽しいからねえ。次、席空けてもらうからちょっと待っててね」 そう言ってカトーさんはカウンターから出て、つかつかと盛り上がる一方の筐体のほうへ歩いていく。そして学生服の男の子たちと話始めた。 そのうち何人かが私のほうをちらっとみる。その中に同じクラスの藤井君の姿が見えたので少し手を振った。ただ私に気づいているかどうかはわからなかった。 「緊張するね、マリー」 「大丈夫ですわ。きっと」 少し経って、カトーさんは手招きで私たちを呼ぶ。私は背筋を伸ばして恐る恐る筐体へ向かい、マリーはその後を飛びながらついて来る。途中、やっと藤井君も私たちに気づいたようだった。 カトーさんの横にはこの店では珍しく、女の子が立っている。彼女もまた男の子たちと同じように私と同じ学校の制服、というか私と同じ制服を着ていた。 「丁度いい対戦相手が見つかったよ」 と言ってカトーさんは傍らの女の子の肩をぽんと叩く。 「彼女は先月神姫バトルを始めたばかりなんだ。ね、香子ちゃん」 「よ、よろしくお願いします」 その女の子は右肩に神姫を乗せたまま深々と頭を下げる。当然、彼女の右肩に座っていたジルダリアタイプの神姫は声を上げながらずり落ちた。しかしその神姫は落ちていく途中、一回転してから急に落下を止めて腕を組みながら少しずつ浮き上がっていった。 そしてそれに気づいた女の子が顔を上げて、その神姫のほうを見るまで口を尖らせ続ける。 「あ...!ごめんなさい」 「もう少しまわりに注意してくださいね、マスター」 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」 女の子はすっかり私を忘れて彼女の神姫に謝り続ける。その様子をまわりの男の子やカトーさんがくすくすを笑った。 「も、もういいですっ。それよりみなさんが...その...見てますから...」 それが恥ずかしかったのか、女の子の神姫は少し頬を赤らめてどんどん声量を落としていった。 俯きながらちらりと私たちを見て、話を変えて、と訴える。 神姫でもそんな表情をするのか、と感心した私は急いで自己紹介をした。 「えっと、七組の月夜のどかです。こっちはマリー」 「ごきげんよう、マリー・ド・ラ・リュヌですわ」 女の子は思い出したように私たちのほうを見る。 「あ、はい、五組の斎藤香子です」 「ジルダリアのラーレです。よろしくおねがいします」 私の通う高校の一年生は、九クラス三百六十人。私は五組には一人も友達がいない――もちろん偶然だ――ので、彼女とは初対面だったことも納得がいく。 「じゃ、挨拶が済んだところで、早速バトルにしようか」 私も香子ちゃんも、そしてマリーもラーレも、そう言ったカトーさんのほうを向いてはい、と返事をした。 作品トップ | 後半
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【MMS,Type NINJA】 【FUBUKI】 「旧式と思って嘗めていると、後悔しますよ」 自らを試す為に、試されるために その身体に秘めし力、全てを発揮すれば余計な武装などいらないと 風の音さえ立てずに、まるで影に吸い込まれたかの如く 我は忍、闇と共に生きる者 『忍者型MMS フブキ』 フブキは第一弾と同時期に、限定ルートで販売された武装神姫だ。 他の神姫と違い、忍者刀と手裏剣以外の標準装備、特に鎧に値するものを一切持たないのが特徴。だがその分身の軽さは全神姫中未だにNo1であり、そのトリッキーな身のこなしに翻弄され敗れる神姫も数多い。 【基本能力】 フブキは軽装戦闘のプロフェッショナルである。 そのため戦闘基本値に以下の修正を得る。 【射撃基本値】(+2) 【格闘基本値】(+2) 【回避基本値】(+2) 【特殊】カスタムポイント合計が[(レベル+5)÷2]以下の場合【全基本値】(+3) 【技能】 フブキはキャラクター製作時に、以下のリストから技能を3つ習得できる。 また経験を積んでキャラクターレベルが上昇した場合、偶数レベル(2,4,6,8……)に到達する度、新しい特殊技能をひとつ、修得できる。 フブキ 技能リスト 《追加HP》 《一斉発射》 《ウェポン習熟》 《緊急回避》 《逃走》 《シールドブロック》 《追加SP》 《反射神経》 《連携攻撃》 《タフネス》 《突撃》 《不死身》 《SP回復》 《待機攻撃》 《ステルス》 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(±0) 【速度】(5) 【格闘修正】(+1) 【装甲値】 ( 3 ) 【旋回】(4) 【回避修正】(+1) 【HP】 ( 20 ) 【パワー】 ( 5 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 4 / ±0 / ∞ 忍者刀・風花 / 9 / ±0 / ∞ 大手裏剣・白詰草/ 10 / -3 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数 大手裏剣・白詰草/ 10 /-3/ -5/ - / - / 1 【カスタムデータ】 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ / 胸部 / (2)/ ニンジャスーツ /《格闘+1》 《回避+1》 《旋回+1》 脚部 / (0)/ / 背部U / (0)/ / 武装 / (0)/ 忍者刀・風花&大手裏剣・白詰草 計 /( 2 )
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SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・その2 『Over the Rainbow』(前篇) >>>>> Higher higher higher! Higher higher higher! 色鮮やかなレーザービイムとスポットライトに照らされて、ステージに三体の神姫が躍り出た。 彼女たちの登場と共に、ステージを取り囲むビジターから一際大きな歓声が上がる。 右手から跳ね出るのは、お団子頭と可愛らしい八重歯が特徴のストラーフ型神姫。こちらは白い衣装に、頬に星型シール。朗らかで元気いっぱいの踊りを見せる。 ステージの左手からは、短い雪のような髪が特徴のフブキ型神姫。白い衣装に、頬に雫形のタトゥーシール。優雅な力強さを思わせる踊りを披露する。 さらにステージの中央、ライトに照らされて長い銀髪の神姫が舞い降りる。ステージライトの下、色取り取りに輝く純白のドレス、頬にはハート型のシール。白フブキと白ストラーフのふたりの神姫の真ん中から優雅に登場した、妖精のごとき白い神姫。 彼女たちは熱狂する歓声に両手を広げ応えると、華やかに舞いながら歌い出した。 1 関東有数の学術研究都市である摩耶野市。 そのほぼ中央に位置する摩耶野駅近縁にある大型商業施設、神姫センター摩耶野市店。 その上階を占める業務エリア内――神姫スタッフルーム(センター内のさまざまな業務活動に関わっている武装神姫たちの待機室)に彼女たちの〝楽屋〟は設けられている。 「ふみゅ~、今日のステージも盛り上がったね~☆」 大きく伸びをしながらチェアーに腰掛ける神姫、白夜。 お団子状のヘッドセットでまとめた髪、白に黒のラインが入ったボディカラー、限定モデルのストラーフ(悪魔型)。 「そうだね、集まったビジターの皆さんも楽しんでくれていた」 舞台メイクのタトゥーシールを外し片手でもてあそぶ神姫、白雪。 雪のように白い肌と、通常とは違う白を基調に鎖帷子を模した意匠、リペイントモデルのフブキ(忍者型)。 「でもその代わり、ワタシたちもより精進せねばならないということ。多くの人が集まってくれるということは、それだけ期待も大きいよ」 「ふみゅ~、人気者はツライぜってことだにゃ~ん。ふるふる」 そう口では言いながら、あっけらかんとした白夜。白雪はそれを横目で見つつ、雫形シールをテーブルに置いて、後ろを振り向く。 「フィはどう思う?」 『Ah...目覚めて...Ah...ひとりサヨナラを越える勇気抱いて...♪』 白雪に呼ばれ、先ほどから脱いだ舞台衣装をひらひら、楽しそうに歌を口ずさむ少女が振り返った。 「簡単なことよ。期待が寄せられるということは、それだけ多くの人たちが喜んでくれているということだもの」 光を浴びて薄紫に輝く銀糸の長い髪に、純白のボディカラーと艶のある真紅の瞳、先行生産型スペシャルモデルのテイタニヤ(妖精型)。 朝日のような微笑みを浮かべる白い神姫、フィシス。 「素敵じゃない? フィはとても素晴らしいことだと思うの」 そのグループのリーダーを務める少女の当然といった返答に、白雪と白夜はあきれ半分親しみ半分といった表情。 「やはりフィシスは心の臓の強さが我々と違うようだ。いや、この場合CSCの強さといった方が適切」 「さっすがぁ、フィたんはエッライね~ん☆」 「そんなことないわ、ごく自然なことよ。ビジターを楽しませ、喜びを伝える。それがフィたちの役目だもの」 この神姫センターのキャンペーンガール、訪れるビジターたちをショーで楽しませるアイドル神姫。センターに所属する神姫スタッフたちの花形にして、『センターの顔』という重大な役目を課せられた存在。 それが彼女たち三人、摩耶野市店の擁するアイドルユニット――ブルーメンヴァイス。 「でもでもぉ! フィたんもタマ~には、みんなみたいにフツーにしてみたいと思わにゃい? フツーフツー」 「……? 普通って?」 「白夜が言いたいのは、このセンターを訪れる一般の神姫たちのこと。彼女たちのようにマスターと共にバトルを楽しんだり、一緒のひと時を過ごす」 「そうそう、フツー武装神姫ってのはそういうもんだよねー」 「別に、そうは思わないけれど?」 フィシスは少し小首を傾げる。 「ひとりのマスターに奉仕するのも、大勢のビジターに奉仕するのも、同じことじゃないかしら? 他の神姫たちにとっての〝普通〟がマスターに尽すことなら、フィたちにとってこれが〝普通〟なのよ」 不思議がる二人に、フィシスは得意気に胸を反らして答える。それはこのセンターのアイドルとして自分たちにとって当たり前のことだ。 「はにゃ~。どう思います、白雪隊員。ユウトウセイですよ~」 「ふむ、完璧ともいえる思考ロジック。さてその我々とは違うポジティブさの秘訣とは?」 「白雪隊員! 白夜隊員はCSCの他なんたらかんたら、小難しすぃデリケートな部分が怪しいと思いますです。具体的に言うとあのふたつの丸く膨らんでる丘の辺りぃ!」 「ちょっ――ちょっと何するのよ、白夜!?」 にゅっとつかみ掛かってくる白夜の手に、フィシスが身をくねらせる先には別の魔の手が…… 「なるほど、さすが最新世代ボディ……」 「ちょっ、ちょっとぉ――!? 白雪もっ……やめてっ」 フィシスは慌ててその……いろいろと大事な部分を両手で隠しパッとふたりから離れる。 それを見て、白夜隊員と白雪隊員は「ギュピーンッ」と妖しくアイコンタクト。 フィシスは頬を紅く染め、両手で体を抱きしなりと「な、何?」。 「これはこれは、けしからんですみゃ~☆」 「姫よ、よいではないかよいではないかよいではないか」 「ちょっとやめっ! きゃああああ――っ!?」 ばったんきゅ~~ん☆ 「イタタタタ――ッ!×3」 しな垂れ掛かる重みに耐え切れず、三人は揉みくちゃになって盛大にフロアーと手痛いスキンシップをした。 「もう……白雪も白夜もいい加減にしてっ」「……少し調子に乗りすぎたみゃ~」「面目ない……」と三人――ギリギリまで頑張ったんだけど、やっぱりダメだった~、ばたんっ……と倒れた組み体操状態。 「……バカじゃないの?」 ぶつけた肩を擦るフィシスはハッとする。いつの間にか休憩ブースの区画先に、他の神姫スタッフたちがやってきていた。 ふいに湧いてくる羞恥心を抑えて、フィシスは自然を装い立ち上がる。「ほら、ふたりとも。いつまでも寝ていてはダメよ」 フロアーに這いつくばる同僚をせっせと助け起す。 「アイドル風情が、おだてられて調子に乗ってんじゃない?」 つかつかと歩きながら、楽屋に入ってきた神姫たちのひとりが呟く。調整された声量。さり気なく、だがワザと確実に聞こえるよう計算された音強。 ムゥ~ッとする白夜を手で制し、フィシスは相手に微笑を返す。 「どういうことかしら?」 対する神姫スタッフの一団。 色素の薄い髪に黒と赤の戦闘的に塗られたカラー、限定モデルのアーンヴァル(天使型)。 濃緑色の髪に真っ赤なボディスーツ、リペイントモデルのツガル(サンタ型)。 いずれもこのセンターの中でイベント時に巧みな空中ショーを披露する、アクロバットチームのメンバーたちだ。 「あら違った? ああ、そっかー。アンタらはキレーイに飾りたてられた案山子だものね」 一団の中から進み出るアーンヴァル。フィシスたちに挑発的な笑みを向ける。 身構える白夜と白雪のふたり、しかしフィシスはその笑みを真っ直ぐに受け止め、平然といった様子で思案する。 「……フィがブリキのきこりだとしたら、案山子が白雪で、きっとライオンが白夜ね」 くすくす笑っていたアクロバットチームの面々が「?」となる。にっこりと微笑えんで、フィシスは「うん」と納得したように頷く。 「だとしたら、きっと――フィはみんなを包む愛を、白雪はみんなを幸せにする知恵を、白夜はみんなを明るくする勇気を手にすることができるわ。とっても素敵じゃない?」 あっけに取られるアクロバットチームの前で、フィシスは屈託のない笑顔。 そんな彼女にアクロバットチームの神姫たちは毒気を抜かれ、「今に見てなさいよ」と舌打ちしながらチームリーダーのアーンヴァルが立ち去る。 戸惑いながらリーダーの後を追いかける神姫たち。 それを見送るフィシスの後ろで、白雪と白夜はこっそり「イエイ」と手を合わせ、ニンマリした。 2 「新しい試みのステージショー?」 ブルーメンヴァイスの三人は、マネージャー役を務める業務スタッフから次のステージ内容を聞かされた。どうやら、今度からステージイベントにアクション要素を取り入れることになるらしい。 「そうと決まったからには、頑張らなくちゃね?」 新イベントと聞いて明るく前向きなフィシスに比べ、白雪と白夜の足取りは重い。 「ふみゅ~、どうしてウチらのショーにアクションシーンが入ることになったのきゃなー? はてはて」 「確かに急な話だ。リスクも増える」 白夜はおチャラケた態度で誤魔化す。白雪は冷静を繕う。それが如実に語る、ふたりの新イベントについての不安と疑問。 「仕方ないわ、それがフィたちの〝もうひとつの役目〟なんだもの」 ふたりの不安を断ち切るようなフィシスの宣言。 センターのアイドル――ブルーメンヴァイスにはもうひとつ課せられた役目がある。 それは各種イベントやキャンペーンという形を通して、神姫センター内の様々なサービス、それを支える新技術の発展と実用試験を行うこと。 摩耶野市店のトップガン。 最新技術を用いた武装神姫であるフィシスたちだからこそ務まる、重要な役目だ。 「で、こーいうオチになりますきゃあ……」 練習用のステージに向かい、ブルーメンヴァイスの三人は各々の武装に身を包んでいた。 フリルを模した装飾のついた白亜の鎧に、ふわりと広がったドレススカートが華美な妖精武装を纏ったフィシス。 白磁の装甲に金の角と生やし、無骨な巨腕が重厚さと無邪気さをアピールする悪魔武装を装着した白夜。 白桃に染まる装束に白い狐の面を下げ、すらりとしたシルエットが軽やかで可憐な忍者武装を駆る白雪。 三人の前に居並ぶ神姫たち。黒い装甲黒い翼――それは限定アーンヴァル+リペイントツガルで構成された空中アクロバットチームだった。 「きーてにゃいよー」 「なるほど得心納得。だから先ほどはこちらに挑発的な態度を……」 ジトーッとうんざりした顔の白夜の隣で、嘆息する白雪。 新しいショーに取り入れるアクション要素……つまり、アクロバットチームと競演してステージイベントを行うのだ。 「あ~ら、アイドル様が今度は仮装大会でもやるつもりなのかしら?」 髪を肩で払い、すれ違いながらアーンヴァルリーダーが嘲る。取り巻きのアクロバットチームの揃って押し殺した笑いが続く。 フィシスはあくまでも笑みを絶やさず、通り過ぎる彼女らに声を掛ける 「みんなで一緒に、イベントが成功するよう頑張りましょう」 嘲笑されながら、嫌悪を微塵も出さずに語りかけるフィシスがおもしろくなかったのか。アクロバットチームはそのまま無視して練習ステージへ行ってしまった。 「な~んだか、おもしろくないみゃ~」 「そんなこと言ってないで、みんな同じ神姫センターの仲間でしょう?」 「あっちはそうは思ってなさそうだ。不倶戴天、敵意満々といったところ……」 白雪、歩き去った神姫たちに向け、無表情に中指を立てジェスチュア……びしっ! 白夜、同じくステージ入り口に向け、目の下に指を当て舌を出す……あっかんべー☆ 「……あっちはあっち、こっちはこっちよ。ほら、フィたちも早くしないとマネージャーに叱られてしまうわ」 相方ふたりの分かりやすい反応をやれやれと思いながら、フィシスは練習ステージへの入り口をくぐる。 歌や踊りでビジターを楽しませるブルーメンヴァイス。華麗な空中ショーでビジターを楽しませるアクロバットチーム。……どちらもセンターを訪れるビジターに喜んで欲しいという気持ちは、同じはずだ。 「そうよ。だったら、一緒になればもっと楽しいはずだわ」 小さく呟いた、その言葉をかみ締めながら、フィシスはゲートを抜けた。 『Over the Rainbow』(前篇)良い子のポニーお子様劇場・その2//fin 戻る
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如何に海千山千の猛者(変態)揃いの武装紳士淑女であっても武装神姫から離れた日常と言うものはある。 黒野白太も例外ではなく彼から武装神姫を切り離せば関東地方の○県×市にある中学校に通う一中学年生だ。不登校でもなく授業は真面目に取り組んでおり総合成績は上の下、身体も障害も持病も無い良好な状態を維持している。苛めに遭っているわけでもなく、かと言って過剰に頼られているわけでもない、月並みに綺麗な学生生活。 そんな黒野白太に唯一の悩みは中学三年生にもなるのだからそろそろガールフレンドが欲しい、そのくらいだ。凄腕の神姫マスターともなれば女性の神姫マスターの交流もあるが、所詮それは神姫バトルがパイプになって繋がっている関係であり、どんな武器が強いだとか、この神姫にはどの武装が相性がいいだとか、強くなる秘訣だとか、そんな話ばかりで色恋沙汰とは程遠い。付き合うのであれば武装神姫に対しての理解があり出来れば年上の女性である事が黒野白太の願望である。 閑話休題、兎にも角にも到って健全な中学生生活を送っている黒野白太は普段通りその日の授業内容を消化して、放課後最前のホームルームを終えると直ぐに筆箱とノートと教科書を取り出してその日の予習と復習を始めた。放課後に予習と復習を終わらせるのが黒野白太の日課である。それから三十分程すると教室には黒野白太だけになり、一時間程すると日が暮れ始め、二時間程すると黒野白太は予習と復習を終わらせて学校を出た。 神姫バトルの大会がある日などには学校にも神姫を連れていきそのまま神姫センターに向かうのだが、此の日は何も無く、そも学校に神姫を持ちこむ事は禁止されており教師に見つかってしまえば取り上げられてしまうので連れて来なかった。そういうわけで黒野白太は唯の中学生として帰路に着き学校から出て自転車を漕いでマンションに辿り着く。正面入り口から見て右側、駐車場とは建物を挟んで反対側に在る駐輪場に自転車を止めて階段を上り鍵を使って玄関の扉を開けた。 「ただいまー。」 住人の迎えの言葉は帰って来ない、ラノベによくある理由で黒野白太は一人暮らしをしているのだから。と言っても神姫は一人と呼べるのか微妙なので一人暮らしと表現したが彼の神姫であるストラーフMk2型神姫イシュタルもいる。廊下の奥から漂ってくる胃袋を刺激する香ばしい匂いがイシュタルの居場所を教えてくれた。その通りイシュタルは台所に居てリアパーツの副腕と自身のもの計四本の腕で御玉杓子を持ち汁物が入った鍋を混ぜていた。 元々ストラーフ型が重装甲で神姫バトルに出るように造られている所為か自分よりも大きな御玉杓子を苦も見せず操っている。予定の無い平日の食事はイシュタルが作る、これは数年前からで黒野白太にとっては別に珍しい風景でも無かった。機械である神姫の記憶はデジタルだ、神姫であるイシュタルは冷蔵庫の中身と食事から採れる栄養バランスを記憶して調理する事が出来る。尤も神姫は栄養を第一にする上に味覚が無いのでのでそのまま調理すれば不味い料理が出てくるのだが、その辺りは黒野白太の干渉で解消していた。 「ただいま。」 「おかえり。夕食はもう少しで出来るから待っていてくれ。」 「分かった。」 黒野白太は台所を出て近くの自室で分厚い手掛け鞄を下ろし明日の授業の時間割を思い出しながら教科書やノートや参考書を入れ替える。明日の授業と鞄の中身を一致させるとパソコンを起動させ神姫ネットや知り合いの神姫マスターからの連絡の有無を確かめる。それが無いと知るとパソコンの電源を落とし外出用のお洒落な肩掛け鞄に財布や神姫の武装を入れて外出の準備をする。準備も終えて「さて次は何をしよう。」と少し悩み神姫の情報雑誌に手を出した所で台所からイシュタルが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。 台所に戻ると調理は済んでいてイシュタルは食器を運んでいたので黒野白太は食器を受け取って盛り付けてテーブルにまで運ぶ。最後に紙パックの牛乳をコップに注ぐと何かを思い出したかのように黒野白太はテレビのリモコンに手を伸ばしてテレビの電源を点けた。ニュース番組がやっていたのでそこから流れてくる情報を頭に留めておく程度に聞き流しにしつつ最近になって食卓(戦場)を共にする事になった新入りである真っ黒な箸に手を付けた。 「いただきます。」 両手を合わせて目を瞑る、神姫以外に誰も居ないのにそんな事をするのは長年に渡って染み付いた癖のようなものだ。黒野白太が夕食を食べている間、イシュタルはする事が無いので今日の新聞を足場にして新聞を読んでいる。それも何時もの事であるが黒野白太は何気ない拍子でイシュタルを見てしまい、イシュタルも同様の理由で黒野白太を見た。目が合ってから少しの時間が経っても黒野白太は見つめたままなのでイシュタルもまた動けないので時間が止まってしまったかのような錯覚がする。 「…。」 「何だ?」 「これ、美味しいね。」 「どういたしまして。」 そして時は動きだし黒野白太は夕食に向き直ってイシュタルは読み掛けていた新聞の政治経済の記述を読み直す。神姫バトルだけではなく日常生活においても黒野白太は思いつきで行動する。が、無視すると拗ねるので適当にあしらうのが正解であるとイシュタルは分かっているからだ。それ以降は黒野白太は無意味な言動もせず数十分ほどして夕食を食べ切り最後に自己流(アウトロー)の〆として牛乳を飲み干すと箸を置いて両手を合わせて目を瞑る。 「御馳走様でした。」 「御粗末様。」 黒野白太は食器を流し台にまで運んでからタワシを手に取り洗剤を塗り込んでわしゃわしゃと食器を洗い始める。洗い終えるとよく振って水気を切りタオルで完全に水気を拭き取ってから積み重ねていき、洗う食器が無くなると食器を食器棚に戻す。その後で調理に使った鍋なんかも洗って拭いて、それが終わった頃にはイシュタルは新聞を読み終えて黒野白田の部屋に向かっていた。 一方の黒野白太はタオルで手を拭いハンカチで口元を拭い壁に掛けた鏡で髪を梳いており、それが終えると殆ど同時にイシュタルは黒野白太の部屋から外出用の肩掛け鞄を台所にまで持って着ていた。黒野白太がそれを受け取ると肩掛け鞄を渡したイシュタルは鞄の中に飛び込んで僅かな隙間からひょっこりと顔を出した。 「さて。じゃあ行くか。」 テレビを消し部屋の電灯を全て消しマンションの玄関に出ると鍵を掛けて階段を下り自転車小屋へと向かう。自転車に乗ってから寄り道をする事も無く神姫センターにまで着いて自転車置き場に自転車を置いて自動ドアを潜る。自動ドアを潜った頃にはイシュタルは勝手に肩掛け鞄から出て一跳びで黒野白太の左肩(彼女の指定席)にまで跳び乗って腰を下ろした。 センターに入り神姫バトルの筺体使用の受付を済ませた黒野白太がきょろきょろと対戦相手を探し始めるとセンターに充満していた熱気が僅かに白んだ。その原因が黒野白太である事は黒野白太自身が誰よりも理解している。モブキャラの誰か「『刃毀れ』だ…。」と漏らしてしまった。実力が知られる有名人が神姫センターに姿を現せればセンターに波紋が起こるのは無理もないが黒野白太の場合はちょっと訳が違う。 プロレスや芸能人には所謂『ヒール』が存在する、反則行為を行ったり悪口を言ったりする事で大衆に自分のキャラクターを確立させる役者である。それは神姫バトルにおいても存在し黒野白太は『武器を失った神姫を一方的に嬲る事が大好きな』ヒールとして知らされていた。そんな人物が神姫センターに来られれば他の利用者がどう思うか太陽が沈むより真っ暗な気分になるのは明確である。 利用者の中には中2病真っ盛りな輩も居て口には出さずとも出ていくとメルヘンな事を考えているのか視線で黒野白太の退場を訴えている。これについては黒野白太も反省している、四年前に若気の至りで『刃毀れ』のキャラクターを提案してきた記者にOKを出した自分を殴りたいとすら思っている。何故なら自分が使っている神姫が悪魔型神姫ストラーフ型だったものだから余計にストラーフ型=悪役のイメージが強調されたからだ。 褐色萌えである黒野白太にとって愛するストラーフMk2型に勝手なイメージを付けてしまったのは心苦しいものがあった。渾名の害はそれだけでなく、名が知れてインターネットや情報雑誌と言った玉石混淆な魔界に名が広がって言った為に所為で黒野白太=『刃毀れ』という阿呆な図式を組み立てる輩が出始めたからである。 「黒野白太、いえ、『刃毀れ』ですね。君に神姫バトルを申し込みます。」 「いいえよ。」 「いいえよ?」 「『正直嫌だけど断る理由も無いし別にいいよ。』の略。」 「いつまでその余裕が持ちますかね。今日は君に勝つ為にとっておきの武装を用意したのです!」 例えばたった今黒野白太に神姫バトルを申し込んでおきながらも何故か少年漫画だと失敗するフラグを立てたモブキャラのような。 …。 …。 …。 『やっぱりとは思ってたけどあいつ馬鹿だ。』 神姫バトル開始から数分後 銃撃戦になりハンドガンで牽制を入れつつバトルフィールドに設置されている障害物を盾に黒野白太は呟いた。相手は大剣や爆弾と言った壊れ難いか壊されない武器で固めている、がその装備は偏っておりアーンヴァルMk2型神姫の特性を殺しているとしか思えない。差し詰め武器を壊す『刃毀れ』に勝つには壊れない武器を持っていけばいいとモブキャラは判断したのだと黒野白太は推測する。 別に彼は武器の破壊に執念を燃やしているのではなく相手の心を折る手段として武器の破壊を選んだだけだ。武器が壊せないのであれば装甲を一枚一枚剥ぎ取るだけである。相手に言い訳のしようがない敗北を与えてやる為に情け容赦無い凌辱をしてやろうとグレネードランチャーに手を掛けたがイシュタルに止められる。 『ランチャーを放つのはちょっと待ってくれないか。』 『うん、何で?』 『確かに相手のマスターはどうしようもない阿呆かもしれないがそれに巻き込まれた神姫が哀れだ。』 『そりゃそうだけどさ。でも神姫バトルに参加した以上は一蓮托生でしょ。』 『だが無駄な犠牲者が出るのも好ましくないだろう。』 『神姫を傷付けずあのモブキャラの心だけを折る方法があるの?』 『あると言ったら?』 『いいね、やってみてよ。』 その言葉を合図に黒野白太は機体の支配権を全てイシュタルに譲るとイシュタルは身に纏っていた装甲を全て脱ぎ捨てる。装甲だけでなく武器も捨ててストラーフMk2型のリアパーツに収納されている大剣のみを手に取った。段々とイシュタルが何を思い付いたのかを理解し始めた黒野白太はイシュタルのマスターとして彼女の成功を祈りフラグぐらい立てて置く。 『そんな装備で大丈夫か?』 『造作も無い。』 マスターの気遣い(死亡フラグ)を叩き折ったイシュタルはモブキャラからの銃撃が止んだ瞬間を見計らって物陰から出た。 「なっ、何で武装を捨ててるんですか!?」 「分からないのか? お前如きを倒すのにこれで充分と云う事だ。」 大剣の切っ先を向けながらも凛と響いたイシュタルの挑発にモブキャラはまんまと乗せられて手榴弾を乱暴に投げた。弧を描いた手榴弾がイシュタルを目前に落ちて爆発する瞬間に駈け出して爆風を背後に走り出す。相手の武器が大剣のみならば近付かせまいとモブキャラは手榴弾で粉砕しようと目論むが唯単に単調過ぎた。 モブキャラが手榴弾を握った瞬間にはイシュタルは爆弾が何処に来るかを確定させ投げられた瞬間にその場から離れて回避する。全神姫中でも鈍足な位のストラーフMk2型でも何処で爆発しどの程度巻き込むかが分かっているのであれば避ける事は難しくない。戦場のパイナップルを三つ避けて二人の距離が当初の半分を切ったところでモブキャラはハンドガンを取り出した。 黒野白太はちょっとモブキャラに感心しつつもイシュタルには何も言わず傍観に徹している。銃口が向けられるのと同時にイシュタルは走りながら左に跳び数コンマ遅れて弾丸がイシュタルが元居た場所を通り抜けた。焦り始めたモブキャラが持つハンドガンの銃口がふらつき始めジグザグに動いているだけのイシュタルに正確な狙いが付けられない。 一発二発三発四発五発と全て気泡に終わり大剣を持ったイシュタルが目前にまで迫ったところでモブキャラはハンドガンを投げ捨てた。近接武器なら外さないと大剣を持つが 振り下ろされた刃が届くよりも遙か速くイシュタルの大剣が装甲の隙間を縫ってモブキャラの心臓(コア)を突き貫いた。信じられないとありありと伝わる表情で崩れ落ちるモブキャラを抱き止める事も無くイシュタルは大剣を抜く。 「勝者(ウィナー)・イシュタル。」 静かにも美しく神姫バトルに黒幕を降ろした一人の神姫に、唯一の観客である黒野白太が惜しみの無い拍手を送った。 …。 …。 …。 「何で…何で僕が負けたんだ…あんな相手に…。」 悔しがっているモブキャラに色々と傷口に塗りつけたい黒野白太であったが今この場はイシュタルに任せようと決めつけていた。それに気付いているのかイシュタルは指示されたわけでもなく筐体の上で仁王立ちをしてモブキャラを睨みつけている。この後に怒り狂ったモブキャラがイシュタルに掴み掛かっても直ぐに殴り飛ばせるように黒野白太も前に出ていた。 「君が負けた理由? 簡単だ、君が馬鹿だからだ。」 人を傷付ける言葉の代表格を言われモブキャラはコロっと悔しがるのを止めてイシュタルを睨み返す。その手の中でアーンヴァルMk2が自分のマスターに冷静になるように努めているがその効果が出る様子は無さそうだ。イシュタルは自分よりもはるかに巨大な存在の憤怒の形相に、元々神姫には恐怖は無いのだが、恐れる様子も無く凛として続ける。 「途中で使ったハンドガン、恐らくそこのアーンヴァル型に勧められて入れたのだろう?」 「…そうですけど、それがどうしたって言うんですか。」 「まだ分からないのか。 そこのアーンヴァル型の方が君を勝たせる為に何をしていたのかを。」 「ど、どういう事だ!?」 最後の言葉はアーンヴァルMk2に向けられたもので手の中の神姫は申し訳無さそうに表情を曇らせる。 「そこのアーンヴァル型は何も言わなくていい。あたしが全て言う。おかしいと思ったんだ、総じて学習意欲が高い機体が多いアーンヴァル型が何故あんな馬鹿げた装備をしているのかとな。答えは『オーナーである君が神姫の話を全く聞かなかった』から。勝つ為の努力を怠らなかった神姫の言葉を君は全て無視したからだ。『刃毀れ』は所詮は私達の戦法の一つに過ぎない。通じないと分かれば捨てる。そこのアーンヴァル型はそれを知っていたからハンドガンを持たせたんだ。」 少し神姫ネットで調べれば分かる事で確かに黒野白太が武器を壊した回数はズバ抜けている数字であるものの神姫バトルをした総合に比べ武器を壊した回数は約三分の一程である。黒野白太にとって武器を壊す戦法とは対戦相手の心を折る戦法の一つに過ぎない。それをアーンヴァルMk2は知っていたのだろう、だがそのオーナーであるモブキャラは自分の神姫を無視して自分勝手(エゴ)を突き進んだ。 オーナーの自分勝手(エゴ)に所詮は神姫であるアーンヴァルMk2型が強く出られる筈がない、神姫はどれだけ経験を積んでも奴隷の域を超える事は無く神姫にとってオーナーの命令はC・S・Cに等しく反対も反抗も反逆も出来ないようになっているのだから。勝とうと願ったアンヴァルMk2の精一杯の忠告を無視し努力を無駄にした、それこそがモブキャラが敗北した原因である。 「理解出来たか。それが神姫バトルだ。」 最後にイシュタルは冷たく言い放って筺体を降り黒野白太の左肩に飛び乗って腰を下ろす。意気消沈としているモブキャラを励ますアーンヴァルMk2型にイシュタルに全てを任せると決め付けたはずの黒野白太は声を懸けた。 「僕について調べてくれた君に僕達の秘密を教えてあげる。僕が『刃毀れ』と呼ばれるようになったのは四年前の事だ。」 何を言っているのか理解できずキョトンと首を傾げたアーンヴァルMk2であったが直ぐにその意味を理解してその青い瞳に驚愕の色が映えた。 「四年前は神姫ライドシステムなんて無かった。僕は外野から武器を壊せって指示を出しただけ。実際にそれをやってた奴は…。」 「おい、マスター。敗者に何を言っているんだ。勝者は次の戦いに備えるべきだろう。」 「はいはい。んじゃあ、またね~。」 覇気を込めて軽口を抑えつけるようなイシュタルの言葉に背中を押されて黒野白太はその場を後にした。 「そう言えばあのモブキャラの名前、何だったっけ?」 「さぁな。覚えるだけメモリの無駄だ。」 「酷いな。多分向こうの方が年上だと思うよ?」 「神姫バトルに年齢は関係無いだろう。居るのは勝者と敗者のみ。…そうだな、次に戦った時に私達に全力を出させるようなら覚えておこう。」 「それがいいね。」 筺体を後続の神姫プレイヤーに譲ってそんな雑談をしながらも対戦相手を探している二人に男が近付いてきた。身長が百七十センチ程の男は傍らにアーク型神姫とイーダ型神姫を待機させてイーダ型の方は敵意を剥き出しにしている。 「よう、今の見てたぜ『刃毀れ』。」 「やめろ。有象無象なら兎も角、友達にその渾名で呼ばれるのは恥ずかしい。」 「御久し振り。相変わらず神姫を舐めたような戦い方をしていますわね、イシュタル。」 「久し振りに会ったってのに直ぐに喧嘩売るのは止めなよ、バアル。」 「バッカスは気にしなくていい。バアルの言う通り私は相手を侮って戦っていた。」 敵意を留めようとしないイーダ型神姫バアルに気苦労するアーク型神姫バッカスを気にする事も無く赤見青貴は僅かな笑みを黒野白太に見せた。 「いや、珍しいものを見たもんだ。お前が相手を立てるような真似をするとはな。」 「やったのは僕じゃない、イシュタルだよ。初めは僕も普段通り(心を折ろうと)しようと思ってたから。」 「マジか。やっぱスゲェなイシュタルは。」 「他ならぬマスターが他人の神姫を褒めてどうすると言うのです!」 「マスター、頼むからバアルを怒らせないでくれ。私の胃がストレスでマッハだ。」 「あ、悪い。」 ようやく敵意三割増しのバアルを宥めているバッカスに気を留めた赤見青貴軽い謝罪の言葉を口にした。 「珍しいものを見た、僕もその言葉を返すよ。赤見、柔道はどうしたんだ?」 「もう高校受験が迫ってるから辞めさせられたよ。で、今日はようやく母さんの許可を貰って息抜きに来たわけ。」 「そう言えば赤見は他県に行くんだったね。成程、分かったよ。」 「お前は? まぁ、お前がやることと言ったら神姫バトルしかないか。で、今日はまだバトルするんだろ?」 「まぁね。どう? 久し振りにやらない?」 「やだよ。お前に負けたらしばらく立ち直れなくなるだろ。」 「何を弱気になっているのですかマスター! ここで会ったが百年目、ケチョンケチョンにして差し上げますわ!」 「バアル、それ負けフラグだから」 「お前最後に戦った時、武器どころか装甲も壊されて思いっきり泣いてたじゃねえか。」 それでも降参だけは断固として拒否したあの時のバアルの勝利への執念だけは黒野白太とイシュタルは評価していた。 「そうか。折角、旧交を温めようかと思ったのに、残念だ。」 「『刃毀れ』が言うとその台詞も嗜虐心が食み出して見えるよな。」 「だから渾名で呼ぶのは止めろ。」 「あ、そうそう。紫原と緑間…後、金子さんは、ここに来ているのか?」 黒野白太との共通の友人で神姫マスターだったが、金子と聞いた瞬間に三体の神姫は一斉に顔を顰める。唯一、能面のように無感情だった黒野白太は普段通りの笑顔を取り戻していた。 「来てないよ。まぁ、イロイロあったからね。」 「そうか。やっぱり三人とも神姫バトル辞めちゃってるのかもな…。」 「あんな事があったんだ。家族から神姫を捨てろって言われていても可笑しくは無いしね。それは僕達が何とかしていい問題じゃないよ。」 「…そうだよな、残念だけど「残念だけど僕はもう行くから。じゃーねー。」あ、あぁ、じゃあな。」 あっけらかんと赤見青貴から離れた黒野白太はふらふらとしていたがふと立ち止まってイシュタルだけに聞こえるように言った。 「紫原と緑間と…金子さん、元気かなぁ。」 それは神姫である自分が関わっていい問題ではないと、イシュタルは無言の内に込めて返答していた。 …。 …。 …。 それから数時間後、神姫センターが終業時間を迎えたので黒野白太は自転車を漕いで帰宅していた。帰宅して直ぐに黒野白太は学校から出された宿題を片付けてイシュタルと一緒に今日行った神姫バトルの反省会をする。 宿題に懸けた時間よりも長い反省会を終わらせてから入浴し寝間着に着換え髪を乾かすとベッドに潜り込んだ。風呂から出た時点で神姫であるイシュタルはクレイドルの上で休眠(スリープモード)になっている。 某のび太張りに素早く眠る事の出来る神姫に少しばかり羨ましいと思いながらも掛け布団に身を包ませた。「おやすみ、イシュタル。」と最後に今この部屋に居る唯一の家族の名前を呼んで黒野白太は全身の力を抜き、やがてゆっくりと夢の世界へと落ちて行った。 そうして朝になり黒野白太は眠りから覚め腕を目一杯伸ばして予めセットしておいた目覚まし時計を叩いて耳障りな息の根を止める。のそのそと芋虫のようにベッドから降りてから立ち上がり欠伸をしてから軽く柔軟体操をして固まった身体を解す。 イシュタルはまだ休眠(スリープモード)になっていたので起こすがしばらくの間はふらふらとしていて見ていて危なっかしい限りである。「わはひは、朝に弱いんだよ…。」とは本人の弁ではあるが果たして神姫が朝に弱いとはどういう事だろうか。 兎にも角にもそんなイシュタルに注意しつつも着替えた黒野白太はイシュタルとさっさと朝食をつくりさっさと食べ切る。食器を洗い食器棚に戻した後、黒野白太は風呂掃除をしたが危く石鹸で足を滑らせ床に顔面を叩きつけるという悲劇を引き起こしそうになった。最後の最後で踏み止まった自分を褒め称えつつも風呂場から出ると残り時間ギリギリまで新聞を読む。 最近神姫による爆発事件が起こっているらしい、黒野白太は武装紳士の一人として一抹の不安を覚える。神姫の爆発事件を知りイシュタルを見ると、彼女ははうつらうつらなまま昨日バトルに使った武装の手入れをしている。黒野白太は人差し指でイシュタルの頭を撫でて、寝惚けている彼女はその事に気付かなかったが、時計を見て新聞を畳んだ。 そろそろ学校に行く時間だ、今日も特に予定は無いからイシュタルは置いて行く事にする。学校用の分厚い手掛け鞄を持ち新聞の天気予報に依れば午後から雨らしいのでビニール傘を持っていく。 「行ってきます。」 「いひってらっしゃい。」 マンションの玄関に出て一回に降り自転車小屋へと向かう途中、黒野白太はふと足を止めて空を見上げた。曇りの空は灰色で僅かな日差しが漏れるだけで確かに午後に雨が降ると言われれば誰でも納得出来るだろう天気である。ただ黒野白太が見ているのは曇りの空ではなくちょっと思ってしまった事を呟いてしまった。 「八年前―――両親に神姫を勝ってもらっていなかったがどうなっていただろう。」 過去の「if」考えても過去が変わるわけでもない、それなら未来の「if」を考えた方が建設的だ。黒野白太自身それはよく分かっていたがそれでも感傷的に考えざる得ない。これまでの文字数9628。その内で神姫が関わっていないのは僅か948文字だ。 「一日の約十分の九が神姫と関わっていても、それ以外は何も無くても、両親とも友達とも今は殆ど関わっていなくても、人生に生き甲斐を見出している残念ながら僕は幸せだと思ってしまう。」 それが本心だった。